報復が連鎖すれば、混迷が一層深まることは確実だ。戦闘が中東全体に広がる事態は何としても防がなくてはならない。

 パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスは、イラン訪問中のハニヤ最高指導者が、首都テヘランの住居で「イスラエルの攻撃」を受け、暗殺されたと発表した。

 ハニヤ氏はイランのペゼシュキアン大統領の就任宣誓式に出席するためにテヘランを訪れており、滞在していた部屋にミサイルが直撃したという。

 ハニヤ氏はイスラエルに何度も拘束、投獄された過去を持ち、近年は亡命先のカタールからハマスの政治活動を指揮していた。外交面で中心的役割を果たしており、殺害された影響は極めて大きい。

 イランは、首都での暗殺を許す大失態となった。最高指導者ハメネイ師は「彼の血に報いることがわれわれの義務だ」とし、イスラエルへの報復を宣言した。

 イスラエルは暗殺したとは認めていないが、ネタニヤフ首相はテレビ演説で、ハニヤ氏の暗殺を念頭に「われわれへの攻撃は重い代償を支払うことになる」と強調し、成果を誇示している。

 心配なのは、イランがどんな報復手段を打とうとするかだ。

 ハニヤ氏殺害の前日には、イスラエルがレバノンの首都ベイルートを空爆し、民兵組織ヒズボラの最高幹部を殺害した。

 ヒズボラは昨年10月にガザでの戦闘が始まって以降、ハマスと共闘し、イスラエル北部への攻撃を続けていた。

 ハマスとヒズボラ、どちらもイランが支援する組織の幹部が相次いで殺されたことになる。

 イランは4月に、在シリアのイラン公館攻撃への報復として、イスラエルを直接攻撃した。

 今回も同様に、直接攻撃に出ることは否定できない。イランが支援する各地の武装組織が連動して反撃することもあり得る。

 イランの出方によっては中東地域を覆う大きな戦争にも発展しかねない。中東全体が出口の見えない混乱に陥る可能性がある。

 ガザ戦闘の停戦が一段と遠のいたことも看過できない。

 停戦交渉を巡っては、イスラエルが米国など仲介国に修正案を提示し、今週にも協議が再開される予定だった。

 だが停戦交渉で中心的な役割を担っていたハニヤ氏が殺害されたことで、ハマスのイスラエルへの報復は確実視され、交渉は当面、停止することが予想される。

 間もなく開始から10カ月になる戦闘で、ガザ側の死者は4万人に迫る。犠牲者をこれ以上増やすことは避けなくてはならない。人質の一刻も早い解放も待たれる。

 停戦交渉を進めるためにも、イスラエルの後ろ盾である米国をはじめ、国際社会は連携し、中東の緊張緩和を急がねばならない。