政治が軍事に優越するという民主主義国家の原則を揺るがす事態だ。文民統制をないがしろにすることは許されない。防衛省・自衛隊は改めて胸に刻む必要がある。
防衛省・自衛隊で相次いだ一連の不祥事で、海上自衛隊の潜水手当不正受給を巡り4人が逮捕されていた事実が公表されず、木原稔防衛相にも報告されていなかったことが分かった。
警務隊による逮捕は昨年11月のことだ。潜水訓練に伴う手当を不正に受給したとして、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の容疑で元隊員4人が逮捕された。
海自は先月12日に不正受給に関して計65人を懲戒処分にしたと発表したが、逮捕者がいたことには触れていなかった。
海自は「隠蔽(いんぺい)の意図は全くない」としたものの、4人に上る逮捕者の存在を公表しないのはそもそもおかしい。そのことを防衛相にも報告していなかったとなると、事は一層深刻だ。
実力組織である自衛隊を文民として統括する防衛相に対し、自衛隊が重要な事実を伝えないことはシビリアンコントロール、文民統制の原則に反する。
その後の防衛省の調査結果によると、不正受給の処分発表に際し当時の人事教育局長が木原氏に説明を行い、資料には4人の逮捕を記載していたものの口頭では伝えなかった。局長に逮捕を報告するとの発想が欠けていたという。
先月30日にあった衆参両院の閉会中審査で木原氏は「文民統制の観点から非常に問題があった」と述べ、問題の重大性を認めた。
文民統制は、軍部が内閣の統制を外れて暴走し、戦争の惨禍を招いた反省を踏まえた大原則だ。木原氏はもちろん、自衛隊の最高指揮権を持つ岸田文雄首相も責任を重く受け止めなければならない。
防衛省・自衛隊で相次ぐ不祥事には目を覆うばかりだ。
海自の手当不正受給は、防衛省が先月12日に公表した4項目の不祥事の一つに過ぎない。
他に特定秘密の不適切運用や自衛隊施設での不正飲食、防衛省幹部のパワハラがあり、処分者は合計220人に上る。
この4項目以外にも、潜水艦の修理契約に絡み川崎重工業が裏金をつくり乗員に金品などを提供していた疑惑があり、特別防衛監察が行われている。
問題なのは、岸田政権が厳しい安全保障環境を背景に防衛力を強化する方針を打ち出し、防衛費を大幅に増やしている中で不祥事が多発していることだ。
2024年版の防衛白書では、防衛力の維持には「裏付けとなる財源が必要」として増税に理解を求めている。
国民の信頼を失墜させる不祥事が続くようでは、とても理解は広がらない。信頼回復には解体的な出直しが求められる。