五輪は世界の一体感を醸成する重要な大会だと実感させる17日間だった。メダルに届かなくても各国の選手が積み重ねてきた努力をたたえ、拍手を送りたい。
一方、「平和の祭典」の開催中も戦火はやまず、多くの人が犠牲になった。国際社会の分断が深まる中で、競技を通じた友好や平和を希求する五輪精神が、世界の人々をつないでいくことを願う。
パリ五輪が11日夜(日本時間12日未明)、閉幕した。
3年前の東京大会は新型コロナウイルス禍で原則、無観客開催だったのに対し、パリ大会の会場は連日盛況だった。五輪本来の姿を取り戻したといえる。
開幕直前には高速列車TGV路線網が放火され、テロの発生が懸念されただけに、混乱なく終えたことは安堵(あんど)する。
日本勢は最終日までメダルラッシュが続き、国内を沸かせた。獲得したメダル総数は金20個を含め45個となり、海外開催の五輪で最多を更新したことは喜ばしい。
女子やり投げの北口榛花(はるか)選手は、マラソン以外の陸上競技では、日本女子初の金メダルだ。レスリング女子76キロ級の鏡優翔(ゆうか)選手は、女子最重量級での日本勢初制覇を果たした。
お家芸のレスリングは、1大会最多8個の金メダルを取った。飛び込みや近代五種などでも、日本勢初のメダルを獲得した。
本県勢では、フェンシング男子エペ団体で、古俣聖(あきら)選手(新潟市西区出身)が銀メダルに輝いた。
3回目になるパリ大会は、「広く開かれた大会に」をスローガンに、新時代の五輪を目指した。男女同数の出場枠や市民参加型の企画を実施した。
市民が競技コースを走るマラソン大会を開催し、127の国・地域の4万人が参加したほか、メダリストが一般客と触れ合って祝福を受ける「チャンピオンズ・パーク」を設けた。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が「フランスは驚くべき舞台を用意した。新たな時代の大会となった」と評価した。次世代に続く五輪像を示したのではないだろうか。
課題も残った。交流サイト(SNS)などに、ミスをしたり敗れたりした選手への誹謗(ひぼう)中傷があふれたことは、看過できない。
IOCは選手を保護するため人工知能(AI)を活用してSNSの監視を強化したが、全てに目を光らせることは難しく、対策は道半ばだった。
日本選手団が「行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討する」との声明を発表する事態に至ったことは、残念でならない。
ロシアのウクライナ侵攻や中東パレスチナ自治区ガザでの戦闘が続く中での開催だった。
ロシアやベラルーシの選手の中立を条件にした個人資格参加や、難民選手団の参加は分断が進む国際情勢を反映した。
4年後のロサンゼルス大会は、世界が平和を取り戻し、各国・地域が等しく参加できる大会になるよう、国際社会は紛争をなくすために力を注ぐべきだ。