約310万人もの国民が犠牲になり、アジア諸国などに多大な苦しみを強いた太平洋戦争の終結から、79年が過ぎた。「終戦の日」のきょうは、過ちを二度と繰り返さぬと誓い、平和の尊さを確かめ合う日としたい。

 しかし今なお、世界で戦火がやまず、命が奪われ続けていることは、残念でならない。

 ウクライナへロシアが侵攻して2年半になる。パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘は、イランを巻き込んで中東地域に波及しかねない状況にある。

 多くの一般市民が犠牲になり、人の営みが破壊されている。両地域とも戦乱は泥沼化しており、和平の実現がいかに難しいかを突きつける。

 わが国の足元に目を向けても、現状は平和国家としての基盤が揺らいで見える。

 岸田文雄首相は14日、自民党総裁選への不出馬を表明した。岸田政権下で反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費大幅増を決めるなど、安全保障の在りようを足早に変容させてきた。

 総裁選を機に自民は一度立ち止まり、憲法が掲げる平和の理念を見つめ直してもらいたい。

 ◆米国一辺倒に危うさ

 政府は今年3月に、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を解禁すると閣議決定した。

 殺傷能力の高い戦闘機の輸出解禁は、日本の安保政策の転換となるものだ。

 道を開いたのは、2014年の安倍政権下で行われた武器輸出三原則の見直しだった。防衛装備移転三原則を新たに閣議決定し、装備品の輸出や供与のルールを定めて武器輸出を事実上可能にした。

 さらに岸田政権は23年末に運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の輸出に踏み切った。

 戦争を下支えできる仕組みが徐々に整ってきたことは否定できない。加えて、なし崩しに歯止めが取り払われてきたことにも大いに問題がある。

 重要な法案や政策を、十分な国会審議を経ずに閣議決定などで決める手法は、安倍政権から岸田政権まで3政権にわたって引き継がれ、国会の空洞化を招いたと言わざるを得ない。

 発足から70年を迎えた自衛隊を巡っても現在、近年では例を見ない大規模な組織改編が予定されている。

 政府は陸海空3自衛隊を一元的に指揮する統合作戦司令部を本年度末に発足させる。4月の日米首脳会談で合意したもので、米国側も歩調を合わせ、在日米軍の権限を強化した統合軍司令部を組織する方針だ。

 政府は「自衛隊の全ての活動はわが国の主体的な判断で行われる」としているが、米軍との一体的運用への懸念は根強い。有事の際に、自衛隊が在日米軍の指揮下に入りかねないという指摘もある。

 日米同盟は日本の安全保障の基軸ではあるが、あらゆる面で米国に追随していては周辺諸国との間で軋轢(あつれき)を生じさせてしまう恐れがある。戦争の回避が何より優先されるべきだ。

 軍事的な緊張が各地で高まる今こそ、日本には主権国家として多元的で戦略的な外交を志向する柔軟性が求められている。

 ◆戦争当事者になるな

 新潟日報社が加盟する日本世論調査会は6~7月に、平和に関する世論調査を実施した。

 日本が今後、戦争をする可能性について、「大いにある」「ある程度ある」と考えている人が合わせて48%に上った。

 20年の調査では32%だったが、21年は41%と次第に増加し、22年以降はほぼ半数が続く。

 日本が戦争当事者になり得ると考えるのは、「戦争ができる国」へ向かう日本の現状に危うさを感じ取っているからだろう。見過ごせない事態である。

 戦争を体験し、その生々しい実態を知る戦中世代が減る中で、戦争への断固とした拒否感が国民の間で薄れてきてはいないか。気付いた時には戦争の渦中にいたという事態だけは、絶対に招いてはならない。

 安全保障や防衛政策を身近に感じることは少なくても、方向性に疑問や不安を感じた時は、臆することなく声を上げることが私たち国民に求められる。

 後世に平和のバトンを手渡していくため、今を生きる世代が負う責務である。

 平和は決して当たり前にあるのではない。常に希求し、努力し続けなければ、保たれないことを深く胸に刻みたい。