所有者が不明で、管理されない土地が増えるのは問題だ。しかしそれを防ぐ制度の使い勝手が悪くては、利用は広がらない。国は制度の改善を図り、周知を徹底していくことが求められる。
相続しても使い道がない土地を国が引き取る「相続土地国庫帰属制度」の利用が低迷している。
制度が施行された2023年4月から今年7月末までの申請は2481件で、うち国有化されたのは667件にとどまることが、法務省の集計で分かった。
相続登記をしないままの土地が放置され、自治体が公共事業をする際に用地買収できないなどの支障が出る「所有者不明土地問題」が起きていることが、帰属制度が始まった背景にある。
特に地方圏には、人口流出が続き、地元を離れた子らが親の残した土地を管理できなくなるケースや、所有者が高齢化し放置されている土地がある。
所有者にとって利用見込みがないまま固定資産税だけを払う「負動産」だ。自治体への寄付や民間のマッチングサービスもあるが、過疎化が進み利便性の悪い土地は、簡単に引き取ってもらえない。
管理が行き届かず、不法投棄のほか草木の繁茂、倒木、景観悪化につながりかねない。空き家があれば、家屋倒壊の危険性や防犯上の問題も生じる。
放置され続ける土地への対策は、喫緊の課題といえる。
問題なのは、帰属制度の承認要件が厳しいために、普及が進んでいないことだ。制度を知らない人も多いとみられる。
定期的に伐採が必要な樹木がある土地や、境界があいまいな土地、崖があるなどで管理に多額の費用や労力がかかる場合は対象外とされている。
土地に建物が残っていたり、抵当権や賃借権が設定されていたりしても認められない。
法務省の担当者によると、毎月千件程度の相談があるが、要件を満たされないと分かり、申請を断念する例もあるという。
制度が活用されない現状に、専門家から要件の緩和を求める声が上がるのも当然だ。
法務省は「施行5年後に制度を見直す規定がある」としているが、柔軟な対応が必要ではないか。
国有化した土地は、民間需要が乏しい場所が多いだけに活用方法も課題だ。
所有者は国に、10年分の管理費用として原則20万円を納めるが、それ以降は国の負担となる。有効利用ができるように知恵を絞らねばならないだろう。
所有者不明の土地を増やさないために、国は今年4月に相続登記も義務化した。だが、民間のアンケート調査で、知っていると答えた人は4割弱だった。
帰属制度とともに、政府は積極的に周知していかねばならない。