米史上初の女性大統領となり、女性の社会進出を阻む「ガラスの天井」を打ち破ることができるのか。そのためには、国民が希望を持てる政策をしっかりと打ち出し、無党派層を含めた幅広い支持を集めねばならない。
11月の米大統領選に向け、米民主党大会最終日の22日、アジア系としても初の大統領を目指す党候補ハリス副大統領が指名受諾演説を行った。「分断の過去と決別し、前に進むため新たな道を切り開く」と訴えた。
共和党候補トランプ前大統領との対決となる。ハリス氏は、トランプ氏在任中に深刻化した米社会の分断を終わらせ、結束に導く決意を強調した。
トランプ氏が返り咲けば、民主主義や女性の権利が脅かされて「極めて深刻な結果をもたらす」と危機感も表明した。
人工妊娠中絶やLGBTQ(性的少数者)を巡る問題は、大統領選の大きな争点だ。
トランプ氏在任中に保守化が進んだ連邦最高裁が一昨年、中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を覆し、共和党優勢の州で中絶制限が進んだ中で、ハリス氏は中絶擁護の姿勢をみせた。
党大会で採択した党綱領も、多様性の尊重を打ち出し、支持層の白人を重視する共和党とは、描く社会像の違いを鮮明にした。
民主党バイデン大統領が高齢を理由に大統領選から撤退し、ハリス氏が後継指名を受けて以降、選挙戦の流れは一変した。ハリス氏は勢いに乗り、全米世論調査でもトランプ氏をやや上回っている。
勢いに陰りが見えるトランプ氏が、無所属で出馬を表明していたロバート・ケネディ・ジュニア氏の要職起用に含みを持たせたり、実業家イーロン・マスク氏の閣僚起用を表明したりしたのは、焦りの表れともとれる。
副大統領候補の民主党ウォルズ・ミネソタ州知事と、共和党バンス上院議員の対決も注目されるが、飾らない人柄のウォルズ氏が好意的に受け止められる一方で、女性蔑視発言をしたバンス氏への支持は低迷しているという。
ただ、主要争点である物価高や中南米からの不法移民問題については、副大統領として対応に当たっていたハリス氏にも責任があると考える有権者は少なくない。
ハリス氏には説得力のある説明が求められる。打ち出した政策を着実に実行しうる指導力を、どう有権者にみせていくかも選挙戦を左右するだろう。
長期化するロシアによるウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を終わらせるために、ハリス、トランプ両氏は具体的な方策を示してもらいたい。
世界が注視する大統領選だ。互いを誹謗(ひぼう)中傷するのではなく、民主主義の大国として、実りある政策論争を望む。