安全を脅かし、偶発的な衝突を招きかねない挑発行為だ。東アジア地域の緊張を高めないように、政府は冷静かつ厳正に対処しなくてはならない。
防衛省統合幕僚監部は、中国軍のY9情報収集機1機が26日に、長崎県の男女群島沖で日本領空を侵犯したと発表した。
中国海警局などの航空機が侵犯した例はあるが、軍用機による侵犯の確認は初めてだ。
木原稔防衛相は27日の記者会見で、「わが国主権の重大な侵害であるだけでなく、安全を脅かすもので全く受け入れることができない」と述べた。
重大な局面であり、政府が厳重に抗議したことは主権国家として当然の対応だ。
Y9は男女群島の南東側を旋回した後、約2分間にわたって領空侵犯した。その後、領空外を旋回し、中国大陸方面に向かった。
航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)して対応した。武器の使用や信号弾の射撃はなかったが、状況によってはより緊迫した可能性があっただろう。
政府は、東シナ海での活動強化の一環だった可能性があるとみて、侵犯前後の行動ルートなどの解析を進めている。
一方、中国外務省は「中国はいかなる国の空域にも侵入するつもりはない」とし、関係機関が状況を確認中だと説明している。
中国側による領空侵犯は過去に2回あり、いずれも場所は中国が領有権を主張する沖縄県の尖閣諸島の魚釣島周辺だった。
尖閣諸島と同じ東シナ海に位置するとはいえ、なぜ今回は男女群島沖の領空を侵犯したのか。日本政府は中国の意図を慎重に見極め、毅然(きぜん)と対処してもらいたい。
懸念されるのは、中国の軍や海警局などの活動が日本周辺で活発化していることだ。
尖閣諸島周辺では、海警局の艦船による領海侵入が常態化し、機関砲のようなものを搭載した船が連日確認されている。領空侵犯があった九州西方でも、中国軍の艦艇や無人機、航空機の活動がたびたび確認されている。
7月には中国海軍の空母「山東」が太平洋を航行し、艦載の戦闘機やヘリコプターの発着艦が計420回確認された。
防衛省は、中国軍が武力行使で台湾の併合を図る「台湾有事」を見越し、海空両面で台湾周辺での行動を常態化させ、実戦能力の向上を目指しているとみている。
防衛省には警戒と監視に万全を期すことが求められる。
同時に、予期せぬ衝突が起き、重大事態に発展することを避けるための努力が必要だ。
政府は実務レベルで情報交換しているという。日中の防衛当局が意思疎通を図るとともに、外交ルートを機能させ、地域の安定を確保することが欠かせない。