中東情勢を複雑化させ、戦火の拡大につながりかねない。報復の連鎖を止め、停戦交渉の合意を急がなければならない。
レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが、イスラエルの軍事拠点を狙ってロケット弾320発以上を発射した。
昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以来、ヒズボラはハマスと共闘してイスラエル軍と交戦してきた。
今回は7月にヒズボラの最高幹部がイスラエル軍に殺害されたことへの報復を理由に、一連の交戦で最大規模の攻撃を加えた。
一方、イスラエル軍はヒズボラの攻撃を察知し、直前に約100機の戦闘機で拠点40カ所超を先制攻撃した。
レバノン南部にあった数千基のロケット弾発射台を破壊し、ヒズボラの攻撃については大半を迎撃したとしている。
ヒズボラ、イスラエル双方の戦闘がさらに激化すれば、中東情勢が混迷を深めるのは必至だ。
現状では双方がこれ以上の緊張激化は望まないとの考えを示唆し、米軍の統合参謀本部議長は地域紛争の危険はひとまず緩和されたとの見方を示している。
とはいえ、共に強硬姿勢を崩していないことも事実だ。緊張は依然、高い状態にある。
イスラエルに対しては、ハマスとヒズボラを支援し、自国内でのハマス幹部の殺害を許したイランも報復攻撃の準備をしていると報じられた。
中東全体への戦火拡大が危惧される。それぞれに引き続き冷静な対処と自制を強く求めたい。
今回のヒズボラとイスラエルの戦闘は、ガザの停戦交渉がエジプト・カイロで開かれるタイミングで行われた。
ヒズボラの攻撃は、停戦交渉にイスラエルが真剣に取り組むよう圧力をかける狙いもあったとみられている。
停戦交渉でハマスは、米国がハマスとイスラエルの隔たりを埋めるとして示した調停案を受け入れなかった。
仲介国は複数の代替案も示したが、ハマスとイスラエルは共に譲歩せず、早期の交渉妥結は困難な状況となっている。
ガザ・エジプト境界でのイスラエル軍駐留が争点となり、イスラエル側は一部撤収を認め譲歩したものの、ハマスは一貫して完全撤退を主張しているという。
問題はこの間にもイスラエル軍はガザへの攻撃を続け、民間人の命を奪っていることだ。
ガザ保健当局によると、昨年10月の戦闘開始以降のガザ側の死者は約4万500人に上る。
これ以上、犠牲者を増やしてはならない。一刻も早い停戦に向け、日本を含め国際社会挙げての取り組みが求められる。