増え続ける防衛費が、国是である専守防衛をさらに形骸化させないか懸念される。
防衛省は、2025年度予算概算要求に過去最大となる8兆5389億円を計上した。防衛力の抜本的強化に向け、23~27年度の5年間の防衛費総額を計約43兆円とする政府方針に沿った要求だ。
大きな特徴は、他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)強化に重点を置いたことだ。
米国製巡航ミサイル「トマホーク」など、反撃能力にも使用できる長射程ミサイルの配備を始める。その一つとして、音速の5倍以上で飛行し、迎撃困難とされる「極超音速誘導弾」の開発と製造施設を整備する。
艦艇などの侵攻に対処するため、複数の小型衛星で探知や追尾する「衛星コンステレーション」も導入し反撃能力に活用する。
侵攻してきた敵を排除する自爆型無人機(ドローン)を陸上自衛隊に配備する。
軍事的台頭を強める中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対処が念頭にある。
とはいえ、軍拡競争を激化させ緊張を高める恐れがある。反撃能力は、国際法違反となる先制攻撃につながる危険性をはらむとも指摘されており、専守防衛との整合性が問われる。
防衛省や自衛隊では、潜水手当の不正受給や特定秘密の不適切運用など不祥事が相次いだ。
このため情報保全や監察体制を強化する。防衛増税も控える中で、まずは国民の信頼回復に努めなければ、巨額の予算に対する支持は得られないだろう。
防衛費は23年度に約1300億円を使い残したことが判明した。予算の増額に対して業務が追いつかずに、執行の手続きが間に合わなかったとみられる。
多額の予算を残すようでは、要求した事業が本当に必要なのか、疑念が生じることになるだろう。
一般会計の要求総額も膨らみ、2年連続で過去最大を更新する117兆円超に上った。
防衛費や高齢化による社会保障費の増大のほか、金利上昇に伴い国の借金である国債の利払いや返済などの国債費が最大となったことが要因だ。
利払いが増えれば、他の政策に充てる経費を圧迫しかねない。
金額は盛り込まず事業内容だけを示す「事項要求」が相次いだことも問題だ。多くの事業に当てはまる物価高騰対策などが対象で、予算編成過程でさらに規模が上振れする可能性がある。
衆院解散・総選挙が取り沙汰され、来年は参院選がある。有権者を引きつけるための、ばらまき予算にならぬよう目を光らせたい。
政府は政策の必要性をしっかり見極め、財政規律が緩まぬよう予算を編成しなければならない。