両者の政策の違いが鮮明になった一方で、議論がかみ合わず、虚言もあった。有権者がどちらを選ぶかの判断を得るには、まだまだ材料は足りない。投票日までさらに論争を交わしてもらいたい。

 11月の米大統領選に向け、民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領が、初のテレビ討論会を行った。

 ハリス氏は大統領候補になって初の舞台だ。即興が苦手だと不安視する向きもあったが、3回連続で候補になり討論慣れしているトランプ氏に対し、攻勢に出て議論を優位に進めた。

 トランプ氏は守勢に回り、挑発に憤慨したり、話題が脱線したりする場面が目立った。

 CNNテレビの緊急世論調査によると、ハリス氏が討論会の勝者と答えた人は63%、トランプ氏は37%だった。ハリス氏が検事時代をほうふつとさせる舌鋒(ぜっぽう)の鋭さを見せたといえよう。

 6月の討論会ではバイデン大統領が精彩を欠き、大統領選から撤退しただけに、民主党にとってはハリス氏に交代して以降の上げ潮ムードが続く可能性がある。

 国民の関心が高い経済や不法移民、人工妊娠中絶問題などを巡り激しい応酬になったが、非難合戦になったり、議論がかみ合わなかったりした。

 経済でハリス氏は、トランプ前政権が「(1929年からの)大恐慌以来、最悪の失業率を残した」と批判したのに対し、トランプ氏はバイデン政権下で急速に進んだ物価上昇をやり玉に挙げた。

 不法移民については、ハリス氏が「国境を守る法案が議会に出されたが、トランプ氏が議員に法案をつぶすよう求めた」とした一方で、トランプ氏はハリス氏が無策のため「何百万人も米国に流入し、仕事を奪っている」と訴えた。

 中絶の権利を擁護するハリス氏に、トランプ氏は「各州が決めることだ」とかわした。

 ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの紛争についての解決策では、具体的な案が示されず物足りなさが残った。

 残念だったのは、不正確な発言が相次いだことだ。

 トランプ氏の「不法移民は犬や猫など住民のペットを食べている」「出生後でも赤ん坊を殺せる州がある」といった主張の多くを、主催したABCテレビは「間違い」と判断した。

 根拠がなく国民の不安をあおるような発言であり、国のリーダーを目指す候補として、あまりにもお粗末だといえる。

 ハリス氏も数は少ないが不正確な発言があったほか、容認に転じたシェールガスの開発手法などでは歯切れが悪かった。

 再討論をトランプ氏は否定したが、ハリス陣営は前向きだ。議論を重ね、大国の将来像を明確に示すべきだろう。