地道な稽古と強い心で金字塔に名を刻んだ。40歳を目前にしてなお余力を感じさせる「角界の鉄人」が、大記録をどこまで伸ばすか、続く奮闘に期待したい。

 場所中の大相撲秋場所3日目で、元関脇の玉鷲が通算連続出場の新記録を樹立した。2004年春の初土俵から通算1631回連続出場し、史上1位となった。元関脇青葉城の記録を超え、38年ぶりに記録を更新した。

 激しい突き、押しで、39歳の今日まで20年以上、闘ってきた。189センチ、178キロの体は張りも良く、衰えを感じさせない。

 日頃は記録へのこだわりを見せない玉鷲だが、史上1位を白星で飾った日は「本当に良かった。考えないようにしても考えてしまい、すごく緊張した」と安堵(あんど)した。思いを秘めていたのだろう。

 ホテルマンを志していたが、モンゴルから留学していた姉を訪ねて来日したことが転機となった。19歳で初土俵を踏むまで、本格的なスポーツ経験もなかった。素質にも恵まれず、相撲の基本である突き、押しを徹底的に磨いた。

 花開いたのは30歳を過ぎてからだ。34歳だった19年初場所で初優勝し、22年秋場所で2度目の賜杯を手にした。37歳10カ月での制覇は、6場所制となった1958年以降、最年長の記録だ。

 現在も土俵での四股やてっぽう、すり足を重視する。徹底した基礎運動で鍛えた体が、前に出る力強い相撲を可能にしている。

 目を見張るのは、気持ちの強さだ。穏やかな笑顔がトレードマークで、苦しみは表に出さないと決めている。けがをしても「休んでいる場合ではない」と自らを奮い立たせるという。

 力士が大型化し、横綱照ノ富士をはじめ、多くが故障による休場を余儀なくされている。休まず土俵に上がり続けることは、並大抵の努力ではできない。

 玉鷲が大切にしているのは、昭和の名横綱玉の海の精神だという。片男波部屋の大先輩で横綱を10場所務め、初土俵から一度も休まず、27歳で急逝した。「本場所の15日間を精いっぱい闘う気持ちを見習っている」と話す。

 一貫して稽古に取り組む真面目さと、先人への尊敬の念を忘れない謙虚さは、全力士の手本になるものだ。

 心技体のそろった見応えある相撲で、これからも土俵を沸かせてほしい。若手力士に負けずに鍛錬し、生き生きと年を重ねる姿を、私たちも参考にしたい。