教科書への政府見解の押しつけが進んでいけば、教科書で学ぶ子どもたちの自由な発想を阻害することになりかねない。

 2023年度から主に高校2年生が使う教科書検定の結果を、文部科学省が公表した。

 探究的な学習が重視される構成となった一方で、地理歴史と公民で政府見解の記述を求める検定意見が過去最多となった。

 教科書への政治介入が強まり、学問的見地が二の次になってしまうのではないか気掛かりだ。

 修正を求められたのは、日本の植民地支配の記述内容についてで、14年に改定された検定基準が根拠になった。当時の安倍政権が、政府の統一的見解があるケースは、その見解に基づいた記述にするように改めた。

 「『強制連行された』とひとくくりにはできない」「従軍慰安婦という用語は誤解を招く」とする答弁書などを指している。

 このため、「強制連行」との表現について教科書会社は「日本本土に送られた」や「動員してはたらかせた」に書き換えた。過去の検定なら、修正せずに済んだとみられている。

 政府見解は時代や国際情勢、時の政権により変わることもある。

 例えば、領土問題では北方領土を「日本固有の領土」と明記しているが、安倍政権はロシアとの領土交渉が進展する期待が高まった際に、「固有の領土」と呼ぶことを封印した。

 一方、岸田文雄首相はロシアのウクライナ侵攻後、「固有」を復活させている。

 教科書への政府見解の記述義務付けに、妥当性はあるのか。

 22年度に導入された新学習指導要領は、物事を資料に基づき多面的、多角的に捉え、探究的な学びを重視するとしている。

 「多数の朝鮮人を強制連行した」との記述を残しつつ、政府見解を書き加えた修正を施して合格した教科書もあった。しかし、政府見解の押しつけは、新指導要領が目指す方向性と矛盾しかねない。

 新指導要領に沿って、探究型教育を重視した変化もある。

 その一つは、ジェンダーを巡る問題で、科目を問わず多くの教科書が掲載した。伝統的な男女の性別役割とは違った視点で捉えることを促している。

 NIE(教育に新聞を)の実践も取り上げている。生徒たちが複数紙の新聞記事を読んで、各紙面における伝え方の違いを考えて議論をするように勧めている。

 選択科目である「世界史探究」では、複雑な背景を抱える宗教的な対立を、多面的に生徒に考えさせる内容も盛り込まれた。

 大ヒットした漫画「鬼滅の刃」や人気バンドの楽曲のほか、米人気歌手レディー・ガガさんとその歌詞(写真)を掲載するなど、高校生の興味を引く工夫を凝らした教科書もあった。

 大事なのは、教科書を通して議論を促し、学びを掘り下げていけるかどうかだ。そのためには教科書は、多様な視点を与えられるものであるべきだろう。