出会い、別れ。春への思いは人それぞれだ。約800年前、佐渡にいた順徳上皇は、どんな思いで春を迎えていたのだろう
▼〈むすびあへぬ春の夢路の程なきにいくたび花の咲て散らん〉。上皇が島で暮らした間に詠んだ歌を収めた「順徳院御百首」にある一首だ。1221年の承久の乱で鎌倉幕府に敗れ、佐渡配流となった
▼佐渡市の郷土史家山本修巳さんによると、上皇はすぐにも京に戻れると思っていたらしい。しかし願いはかなわず、先述の歌では、佐渡ではもう何度も桜が咲いては散り、今年も散ってしまったと嘆く。島民からは順徳さんと親しげに呼ばれていたとの言い伝えもあるが、順徳さんの春は帰郷の思いが募る切ないものだったようだ
▼住み慣れた地を戦禍で追われたウクライナの人々も、1日も早く元の生活に戻りたいと願う春だ。ロシア軍の侵攻から1カ月余り。居住地を追われた人たちは1千万人を超えたとの報道があった。国の人口の4人に1人に当たるというから、戦争がもたらす悲劇がひしひしと伝わってくる
▼順徳さんは京に戻れぬまま20年余り島で過ごし、亡くなったという。〈思ひきや雲の上をば余所に見て真野の入り江に朽ち果てむとは〉。辞世の歌とされる一首は都に戻れなかった無念、悔しさが感じ取れる
▼悲しい歌は、誰も歌いたくない。ウクライナでは停戦の行方が見通せないままだ。故郷を追われた人々が戻れる日は、いつ訪れるのか。平和の訪れとともにわき上がる歓喜の歌を聞きたい。