全議員が知事は辞職すべきだと決議した議会の意思は重い。それでも知事としての職務を続けるというのなら、いったん身を引き、改めて県民に信を問うべきだ。

 兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑告発文書を巡る問題で、県議会は19日、全会派が共同提出した知事不信任決議を、全会一致で可決した。斎藤知事は10日以内に辞職・失職か、議会解散のいずれかを選択しなければならない。

 知事不信任決議の可決は記録が残る1966年以降、全国で5例目だ。知事はこれまで議会解散に含みを持たせてきたが、過去に解散を選んだケースはない。

 副知事が県政混乱の責任を取るとして辞職し、職員からは知事辞職を求める声が公然と上がるなど、混乱は極まっている。

 自民党は提案理由説明で「県民と県職員からの信頼回復は見込めず、これ以上県政を担い続けることは不可能」と訴えた。

 決議の可決を受け、知事は報道陣に「しっかり考えて決断する」と述べるにとどめた。

 県政の混乱をこれ以上、長引かせてはならない。一日も早い決断が求められる。

 発端は、県の局長だった男性が3月、知事のパワハラなどの疑惑告発文書を報道機関に配布後、県の公益通報窓口に通報したことだった。県は内部調査で誹謗(ひぼう)中傷と認定し、男性を懲戒処分にした。

 県議会は、県の内部調査に問題があるとして、調査特別委員会(百条委員会)を設置したが、男性は証人尋問前に自殺した。

 公益通報者保護法は2020年の改正に伴って改定された消費者庁の指針で、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとることを求めている。にもかかわらず知事は通報者捜しも指示していた。

 告発者の権利が守られなかったことは大きな問題だ。

 告発文書を、県が公益通報の対象外と判断したことが適切かどうかも焦点となっている。

 県は、文書を真実相当性がないとして、保護法の対象に当たらないとした。

 だが、告発を受けた行政側が、公益通報の対象になるかを決めることは、恣意(しい)的な判断につながりかねず、中立性に問題がある。

 百条委では出席した識者が「公益通報に当たらないとの判断が拙速で、知事らの振る舞いは保護法に違反する」と指摘した。

 一方、知事は「法的に問題はない。訴訟になっても耐えられる」と答えている。

 贈答品を要求する「おねだり体質」では、受け取ったことを認めたものの、「社交儀礼の範囲内」としている。知事としての資質を疑う県民は多いだろう。

 知事は続投に意欲をみせてきた。しかし、長引く異常事態の収拾を図ることが、県民のために何よりも大切だと自覚してほしい。