子どもを襲う卑劣な犯行だ。中国政府には、外国人の安全確保と再発防止を強く求める。事件の真相についても明らかにしなければならない。日本政府も邦人を守る対策を徹底する必要がある。
中国広東省深圳で、日本人学校に通う10歳の男子児童が男に刃物で刺され、病院に運ばれたが死亡した。現場は校門から約200メートルの路上で、男児は歩いて登校中に腹部を刺されたという。
容疑者の44歳の男は現場で拘束された。動機は明らかになっていない。児童を殺害する許しがたい凶行だ。憤りを禁じ得ない。
中国では6月にも江蘇省蘇州で、日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が切り付けられる事件があったばかりだ。
日本政府は中国側に邦人の安全確保を求め、日本総領事館も日本人学校の周辺を調べるなど安全対策に取り組んでいた。それにもかかわらず、なぜ凶行が繰り返されたのか。残念でならない。
最近は中国当局によるスパイ容疑での邦人拘束が相次いでいた。日系企業や在留邦人の不安が高まる中で日本人の子どもが襲われる事件が立て続けに起き、邦人社会には衝撃が広がっている。
改めて感じさせるのは、中国で事業を行うことの困難さだ。仮に日系企業の事業縮小や撤退が続けば、景気低迷が長引く中国にとっても打撃となる。
中国政府には、外国人が安心して暮らせる環境整備が喫緊の課題であると捉えてもらいたい。
憂慮するのは、中国の一部で見られる反日の動きだ。
日本人学校は交流サイト(SNS)で愛国主義者の攻撃対象となっていた。当局がスパイ行為の通報を奨励したことに伴い、日本人学校はスパイの“拠点”などと主張する投稿が多くあった。
男児が刺された18日は満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件が起きた日だ。中国政府は日本の侵略が始まった「国辱の日」と位置付けており、各地で記念行事が行われていた。
今回の事件との関連は不明だが、根拠のない反日感情の広がりを抑えるため、日中両政府がしっかり対応する必要もあろう。
蘇州の事件もそうだが、中国側は犯行が日本人を狙ったものかどうか、動機や背景などをほとんど明らかにしていない。これでは対策のしようがない。不安が増すだけだ。日本政府は引き続き情報の開示を働きかけてほしい。
忘れてならないのは、大多数の中国人は良心的で友好的だということだ。蘇州の事件では、日本人母子を切り付けた52歳の男を阻止しようとした54歳の中国人女性が刺され、命を落としている。
今回の事件では多くの中国人が献花に訪れ、悼んでいる。過度に感情的な中国批判に陥らず、冷静に全体を見ていきたい。