雪解けはかなり進んだだろうか。山あいなどで棚田が顔を見せる季節になった。コメどころである新潟の稲作は、平場の広大な水田とともに各地に点在する棚田にも支えられている。本県は棚田の多さでも全国有数だ

▼農林水産省が選定した「棚田遺産」に本県から36地区が入った。1999年に認定した「棚田百選」の後継として、地域振興の取り組みが進む44道府県の271地区を選定した。本県は全国最多となった

▼このうち、長岡市の比礼カカシアート棚田は長岡造形大と地元住民が独創的なかかしを展示して交流を続けている。佐渡市の小倉千枚田はオーナー制度に取り組み、多くの人々が農作業を体験してきた

▼県内には山間地だけでなく、海に面した地域にも棚田がある。その成り立ちが地域の文化や産業と密接に結びついている例もある。金銀山があった佐渡には、坑道の水をくみ上げる技術を生かした用水路を備えた棚田があるという

▼優れた景観や保水機能など棚田の価値は数々あるが、どこも程度の差こそあれ、どう維持するかが課題になっている。持ち主から耕作を託された女性に話を聞いたことがある。収穫したコメは「一粒一粒が水晶に見えた」。しかし体調を崩し、続けられなかった。草に覆われた田を前に「こんなになって…」と目を赤くしていた

▼〈村あげて守る棚田に飛ぶ蛍〉森山恵子。以前、本紙に載った句である。こんな光景をどう残すか。まぶしい日差しが届くようになった。春耕の季節が訪れる。

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