自民党は生まれ変わることができるのか。新総裁は、地に落ちた政治への信頼を取り戻す方策を示さねばならない。

 国民が納得できる政治改革を断行し「政治とカネ」の問題の払拭が求められる。

 自民党は27日、総裁選の投開票を行い、石破茂元幹事長を新総裁に選出した。

 石破氏は来月1日召集の臨時国会で、岸田文雄首相の後継首相に指名される。

 物価高騰対策や厳しさを増す安全保障環境、頻発する災害への対応などで難しいかじ取りを迫られる。

 ◆「本命不在」の大混戦

 過去最多の9候補で最長の15日間にわたった総裁選は、本命不在の混戦だった。1回目の投票で過半数を獲得した候補はおらず、2位の石破氏が、トップの高市早苗経済安全保障担当相を決選投票で逆転した。

 石破氏は新総裁に選出後「国民が笑顔で暮らせる安全安心の国にするために全身全霊を尽くす」と語った。

 総裁選は5回目の挑戦で「最後の戦い」としていた。次の総裁候補として世論調査での人気は高く、党員・党友票を多く獲得した。一方、1回目投票の国会議員票は、高市氏や3位の小泉進次郎元環境相を下回った。

 党内基盤が弱い石破氏が、安定した政権運営をするには、総裁選でのしこりを残さないよう努めねばならない。

 衆院解散・総選挙が近いと予想される。石破氏は会見で「野党と論戦を交わした上で、なるべく早く審判を受けなければならない」と述べた。

 野党第1党の立憲民主党新代表に就いた野田佳彦元首相は論戦力に定評がある。決選投票では、野田氏に対抗する観点から、論客で知られ安定感のある石破氏を、多くの議員が「党の顔」に選んだとみられる。

 自民党が衆院選で勝つには、派閥裏金事件で生じた党への逆風をはね返す信頼回復策を打ち出さねばならない。

 しかし、総裁選を通して石破氏は裏金事件の再調査に言及せず、「新事実が判明すれば必要な対応を検討する」と述べただけだった。

 政策活動費についても廃止を主張した候補がいた中で、石破氏は「透明性を高めることが重要だ」とし、廃止は必要ないとの立場だった。

 岸田首相は裏金事件の責任を取る形で退陣表明したが、共同通信の8月の緊急世論調査では、首相の退陣表明が「自民党の信頼回復のきっかけにならない」との回答が78%に上った。

 国民の政治不信は根強い。政治資金規正法改正も不十分だったことは明らかだ。信頼回復へ、さらなる対策が求められることは論をまたない。

 ◆地方活性化に全力を

 課題が山積する中で、問われるのは石破氏の実行力だ。

 鳥取県選出で地方創生担当相も務めた石破氏は、地方の衰退を肌で感じているだろう。

 「経済の起爆剤として、10年間に集中的な地方創生策を実施する」と訴える。

 原発・エネルギー政策では、再生可能エネルギーの普及を進めて、原発依存度を低減するとの考えだ。

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の理解を得るために最大限の努力をするべきだ」と述べている。地元住民の声をしっかり受け止めてもらいたい。

 拉致問題前進のために、日本と北朝鮮が互いの首都に連絡事務所を開設する案を示した。

 石川県能登半島の豪雨被害に関しては会見で「補正予算の編成を待っているわけにはいかない。基本的には予備費で対応したい」と述べた。被災者が一日も早く元の生活に戻れるよう全力を挙げてほしい。

 今回の総裁選は、派閥裏金事件を受けて麻生派以外の派閥が解散した中で行われた。派閥の締め付けが弱まり、最多の立候補となった。

 若手も立候補した。石破氏の防災省設置など独自政策が示され百家争鳴の感を呈したが、議論が深まったかは疑問だ。

 終盤には派閥や旧派閥の領袖(りょうしゅう)に支援を要請する候補や、勝ち馬を見極めて、影響力を保とうとする派閥回帰の流れが鮮明になった。

 石破氏がどのような党役員人事や組閣をするのか、注目される。派閥の力学が働くような人事が行われることがないか、目を凝らしたい。