中東地域の戦火を広げてはならない。国際社会はイスラエルへの働き掛けを強め、レバノンへの攻撃とガザの戦闘を止めるために力を尽くす必要がある。

 レバノンで、親イラン民兵組織ヒズボラを標的にしたイスラエル軍の攻撃が激化している。27日には首都ベイルート南部にあるヒズボラの本部が空爆され、イスラエル軍はヒズボラ指導者のナスララ師を殺害したと発表した。

 10日ほど前にヒズボラ戦闘員のポケットベルなどが一斉爆発した後、大規模攻撃が続いている。

 レバノン保健省によると、23日にあった空爆では570人近くが亡くなり、その後の攻撃でも死者が増えている。

 ヒズボラは、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍と戦うパレスチナのイスラム組織ハマスに連帯し、イスラエルと敵対している。

 双方の交戦によるレバノンの犠牲者は、大規模交戦に発展した2006年以降で最多とみられ、危機的な状況だ。被害はシリア領にも広がっているという。

 一連の攻撃を受けてヒズボラは、イスラエルの商都テルアビブに向けて弾道ミサイルを発射するなど、報復に出ているが、指導者の殺害を受けて、交戦が一段と激しくなる恐れがある。

 憂慮されるのは、イスラエルがレバノンに地上侵攻する可能性があることだ。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「ヒズボラが民間人を人間の盾に利用している」とし、ガザと同じ理由で攻撃を正当化している。

 27日には国連総会一般討論で演説し、ヒズボラへの攻撃を続ける意向を改めて示した。

 一般討論では、各国からイスラエルへの批判や戦闘停止要求が出され、一部アラブ諸国はネタニヤフ氏の演説に合わせて退席した。

 ヒズボラの戦力はハマスよりも強力だといい、06年の大規模戦闘時には、ゲリラ戦を仕掛けるヒズボラにイスラエル軍が手を焼いた経緯がある。事態が長引けば、泥沼化が懸念される。

 国連のグテレス事務総長が、「レバノンをもう一つのガザにするわけにはいかない」と危機感を強くするのは当然だ。

 レバノンとガザ、両方の停戦を急がねばならない。

 ガザの停戦交渉はイスラエルとハマスの溝が埋まらず停滞しているが、停戦は中東地域全体の安定に不可欠で、最善の方法だ。

 イスラエルの最大の支援国である米国のバイデン大統領や、レバノンの旧宗主国フランスは交戦停止に外交努力を続けている。国際社会は連携し、イスラエルの説得に動いてほしい。

 日本政府も停戦を呼び掛けるとともに、レバノンからの邦人退避に備え、自衛隊輸送機の派遣を決めた。細心の注意を払い、邦人の安全を確保してもらいたい。