中東の戦火は収まるどころか、拡大している状況を深く憂慮する。国際社会は手をこまねいていてはならない。犠牲者をこれ以上出さないために、紛争停止に全力を挙げるべきだ。

 中東の大国イランが、イスラエルに弾道ミサイルを発射した。

 レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの指導者ナスララ師らが殺害されたことへの報復だと、イラン革命防衛隊が発表した。「イスラエルが反撃したら、より激しく攻撃するだろう」と主張した。

 イスラエル軍は飛来した弾道ミサイルは180発以上と分析し、イスラエルのネタニヤフ首相は「イランは大きな過ちを犯した。代償を支払うことになる」とさらなる報復を言及した。

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘開始から1年を前に、これでは報復の連鎖が止まらない。互いの自制が求められる。

 イランがイスラエルを直接攻撃するのは4月以来2回目だ。1回目は、シリアの首都ダマスカスの大使館が空爆された報復として攻撃した。これに対しイスラエルはイランの空軍基地に反撃した。

 今回のイランの攻撃は4月よりもはるかに激しく、緊迫の度合いは増すばかりだ。

 イランは、ガザでイスラエルと戦っているイスラム組織ハマスや、イスラエル北部へ攻撃を続けているヒズボラを支援している。

 ナスララ師のほか、7月にはハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺され、イランはいずれもイスラエルの仕業と断定している。

 短期間に親イラン勢力のトップ2人を失い、イラン指導部を支える保守強硬派を中心に報復を求める声が強まったとみられる。

 一方、イスラエル軍はイランのミサイル攻撃の前に、ヒズボラを撤退させる狙いでレバノン南部へ地上侵攻を始めた。

 ガザでは昨年10月7日の戦闘開始以降、死者は4万1千人を超えた。レバノンでは数百人が亡くなった。犠牲者には子どもや女性が多く含まれる。無関係な一般市民の命を奪う攻撃は許されない。

 懸念されるのは、イスラエルの後ろ盾である米国が影響力を発揮できていないことだ。米国はイスラエルにヒズボラとの交戦停止を求めていたが、イスラエルは無視する形で地上侵攻を始めた。

 大統領選を控え、バイデン政権は親イスラエルの有権者に配慮し、イスラエルに厳しい態度が取れない状況だという。

 イランとイスラエル双方と外交関係を持つ日本は、緊張緩和へ一層の外交努力が求められる。

 石破茂首相はイランのミサイル攻撃を「厳しく非難したい」と述べ、米国などと事態の沈静化に向け共に努力する考えを示した。戦闘を止めるために、米国はじめ国際社会は結束し、強い態度で臨まねばならない。