発足間もない内閣への信を問うとして、首相が「伝家の宝刀」を抜いた。だが、問われるのは新内閣への是非だけではない。
「政治とカネ」の問題をはじめ、国民の期待を裏切る事態が相次いだが、政治は説明責任を果たしたとは言えない状況が長く続いている。与野党には、政治不信を脱却する道筋をどう示すかが問われる。
◆見えぬ改革の方向性
危機的な政治状況を脱するには、有権者にも責任ある判断が求められていると、私たちは胸に刻まなくてはならない。
衆院は9日解散され、事実上の選挙戦がスタートした。15日公示、27日投開票となる。
石破茂首相の就任から8日後の衆院解散は戦後最短で、就任10日後だった岸田文雄前首相より短い。解散から18日後に投開票を迎える短期決戦となる。
石破首相は「新内閣発足に当たり、国民の意思を確かめる必要がある」とした。
党内基盤が弱い首相には、内閣支持率が比較的高い政権発足当初に選挙を済ませ、信任を得た上で政策を推進したい意向があることは想像できる。
ただ、この選挙で問われるのは、石破政権への信任に限らない。柱となるのは、安倍晋三政権、菅義偉政権、岸田政権を通じて深まった政治への不信と、政治改革の方向性だろう。
自民党を巡っては、安倍元首相が銃撃されたことを発端に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が露呈した。
その後、派閥裏金事件が発覚し、旧安倍派を中心に複数派閥が、政治資金パーティー券の販売収入を政治資金収支報告書に正確に記載していなかったことが明らかになった。
閣僚の更迭や、党の処分など、その都度対処してきたとはいえ、十分な説明責任が果たされたとは言えず、問題の真相はいまだに判明していない。
岸田前首相は裏金事件の責任を取るとして退任した。引き継いだ石破首相に、政治不信の払拭を託せるかどうかが問われることになる。
解散に伴い、自民は裏金事件に関係した前議員のうち12人を非公認と決めた。非公認方針が固まっていた6人に、本県関係の細田健一氏ら旧安倍派6人を追加した。
公認を受けられない決定は候補者には極めて重いものだ。
しかし、裏金事件に関わった前議員では公認される方がはるかに多い。非公認でも当選すれば追加公認するという党の対応は、形だけのけじめに映る。
政治改革の方向性も、改正した政治資金規正法を順守するというだけで、本腰を入れて取り組む姿勢はうかがえない。
説明を軽視し、異論に耳を傾けなかった「安倍・菅」政治、国会の議論を経ずに国の根幹に関わる政策を転換させた岸田政権から、自民党政治をどう変えていくのか示してもらいたい。
首相はかつて「党内野党」として時の首相らに批判的なスタンスで臨み、国民の人気を集めてきた。しかし就任後は総裁選で唱えた安全保障政策などの主張で後退や変節が指摘される。
解散に当たって首相は「多くの論戦が交わされた。国民に判断いただく材料を提供した」としたが、衆参両院の代表質問や35分延長した程度の党首討論で、有権者に選択肢を示したと強調するのは無理がある。
政治不信を増幅させたこれまでの政権のような、強権的な政治手法が継承されていくのではないかと懸念が募る。
◆地域課題にどう挑む
野党は、第1党の立憲民主党が野田佳彦代表に代わって20日足らずでの解散となった。
野田氏は政権交代こそ政治改革だとするが、候補者擁立状況から見ても単独での政権交代は困難で、小選挙区で野党勢力を一本化できるかが鍵を握る。
出遅れた候補者調整は難航を極め、残された時間で合意を図れるか、正念場となる。
今回は小選挙区定数「10増10減」などを受けた新区割りで初めて実施される選挙となり、本県は選挙区が6から5に減る。
どの選挙区も人口減少は著しく、物価高で家計や地域は疲弊している。活性化策が必要だ。原発再稼働問題や拉致問題など本県と深く関わる課題もある。
地域にどう向き合い、解決を図るか。候補者の地に足の着いた論戦を期待したい。