まだ咲かないな。つい先日まで、つぼみを見てはぼやいていた。それが咲き始めたら一気だ。今度は「そんなに急ぐな、散ってしまうてば」。花見気分は勝手である

▼新潟地方気象台の観測では、新潟市のソメイヨシノの開花は4月8日で平年と同じ。ところが、陽気続きで11日には満開宣言、平年より2日早まった。自宅近くの川沿いに桜並木が続く。見上げると、青空より淡紅色の花傘が広い感じ

▼足元の土手では、ナズナの白い小花がかわいい。濃いピンクのヒメオドリコソウもアピールしている。でも、いまは“上を向いて歩こう”だ。花疲れしてベンチに座る。すると「座り心地、どうらね」と声がかかった。近所に住む87歳の男性がニコニコしている

▼何年も川辺の休憩場所を掃除しているという。コンクリートのベンチは冷たかろうと、白木の板を敷いてくれていた。「最高です」。男性の父は川漁師だったそうで、ゆったり流れる川面を見ながら昔話に花が咲いた

▼筆者も30年ほど前まで、ここでイトヨ釣りに精を出していた。それが河川改修で、鉄の矢板とコンクリートで固められた。わずかなアシ原もなくなった。程なくイトヨも姿を消し、いまや絶滅危惧種である

▼「それが最近、カニ捕りかごに2、3匹入るんさ」。男性は何げなく言った。マリンピア日本海の担当に聞くと「それ、すごい朗報です」と声を弾ませた。春らんまん、心もポカポカだ。幻のようになった春告魚の復活を願って、川の名前は伏せておこう。

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