被爆者たちの核廃絶への強い思いと長年の取り組みが認められた。核廃絶を訴えてきた被爆者たちに敬意を表したい。
被爆者の思いを核保有国をはじめ世界各国と共有し、核のない世界の実現に動きを強めていかねばならない。
ノーベル賞委員会は11日、今年のノーベル平和賞は、被爆者の立場から核兵器廃絶を訴えてきた「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」に授与すると発表した。
日本の平和賞受賞は、非核三原則を表明し1974年に受賞した佐藤栄作元首相以来50年ぶりで、2例目の快挙だ。
◆長年の努力たたえる
ノーベル賞委員会は「核兵器のない世界の実現に向け努力し、核兵器が二度と使用されてはならないことを証言を通じて示した」と授賞理由を述べた。
「被爆者の証言は世界で幅広い核兵器反対運動を生み出し、定着に貢献してきた」とも語った。授賞を「核なき世界」に向けた機運を高めていく契機にしていかねばならない。
原爆の恐ろしい実相を、改めて広く世界に知らしめることにもつなげたい。
被団協は、被爆者らでつくる全国組織だ。
米国による54年の太平洋・ビキニ環礁水爆実験をきっかけに56年8月に長崎市で開かれた第2回原水爆禁止世界大会の中で結成された。現在36都道府県の被爆者団体が参加している。
結成以来68年間にわたって、「ふたたび被爆者をつくらない」ことを願い、国連や平和会議に代表団を派遣するなどして核廃絶に向けた運動をリードしている。原爆被害への国家による補償も訴えてきた。
後遺症に苦しむ被爆者の救済や相談事業を行うほか、被爆の実態を国内外で証言するなど、地道な活動を続けている。
草の根の運動が認められたことは喜ばしく、誇らしい。
ノーベル賞委員会は2017年に、スイスに拠点を置く非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」にも平和賞を授与した。平和賞が核廃絶への運動を後押しする形になってきた。
とはいえ、世界では、核の危機は一層高まっている。今回の決定は、核廃絶への流れが逆行していることへの強い危機感の表れとも取れる。
被団協代表委員の田中煕巳さんは「うれしい」と述べる一方で「世界の核兵器の状況に危機感を持つ人が増えたからじゃないか。なぜ今、受賞が決まったのか考えてほしい」と述べた。
ロシアのウクライナ侵攻で核の脅威が高まり、核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ロシアの反対で決裂した。中国は核弾頭の大幅増強を図り、北朝鮮も保有しているとみられる。
パレスチナ自治区ガザの戦闘を巡り、核保有国とされるイスラエルと核開発を続けるイランとの緊張が高まっている。
ストックホルム国際平和研究所は22年、核使用のリスクは冷戦後「最高」と警告した。世界の核弾頭総数は今年1月時点で1万2121発になったと推計している。
ノーベル賞委員会は「現代の核兵器は格段に威力を増している。数百万人を殺害でき、文明を破壊しかねない」と警鐘を鳴らしている。
◆活動の継承次世代へ
核の使用は絶対にあってはならないことだ。核廃絶に向け、唯一の戦争被爆国である日本の役割は大きいはずだ。
それなのに政府は、核兵器禁止条約に参加していない。被爆者から批判の声が上がるのは理解できる。
広島県の被団協は8月、当時の岸田文雄首相にオブザーバー参加するよう要請したが、前向きな姿勢は示さなかった。
石破茂首相は自民党総裁選などで、米国の核兵器を日本で運用する「核共有」についての議論の必要性を訴えていた。
核廃絶への道筋が見えない中、被団協の受賞が、核のない世界の実現に、大きな推進力になることを心から願いたい。
戦後80年を前に、被爆者の平均年齢は3月末時点で85・58歳と高齢化している。
次の世代にどう運動を継承していくかは差し迫った課題だ。活動の休止や解散せざるを得なくなった地方の被爆者団体が続出している。
意義のある活動を継承していこうと志す若い人が、さらに増えてくれることを望みたい。