まず問われるのは自民党政治のありようだ。野党に政権を担う力があるかどうかも焦点となる。
国民、県民一人一人の身の回りの問題は山積している。各政党、候補は具体的な解決策や処方箋を出し合い、活発な論戦を繰り広げてもらいたい。
衆院選が15日に公示され、27日の投開票に向け12日間の選挙戦が始まる。小選挙区289、比例代表176の計465議席を争う政権選択選挙となる。
岸田文雄前首相が内閣を発足させた直後の2021年10月以来3年ぶりの衆院選だ。
◆問われる石破新政権
自民の派閥裏金事件の責任を取る形で退陣した岸田前首相の後を継いだ石破茂政権が国民の信任を得られるか。これが最大のテーマとなる。
とはいえ、9人が争った自民総裁選に勝利した石破氏が首相に就いたのは2週間ほど前だ。実績はほぼなく、予算委員会も開かなかった臨時国会の論戦だけでは十分な判断材料が示されたとは言い難い。
その中で、首相が目指す地方創生などの政策がどれだけ国民に届くかが試される。
自民が発表した衆院選公約では、総裁選で首相が唱えていた日米地位協定改定やアジア版NATO(北大西洋条約機構)創設、選択的夫婦別姓導入などはトーンが弱まった。
首相は臨時国会で「自民党は独裁政党ではない。総裁が言えばそのまま政策になるわけではない」と述べた。その姿勢がどう評価されるか。注目したい。
前回の衆院選は新型コロナウイルス禍にあった。それから3年で物価高が進むなど社会は一変した。今回の選挙では、この間の岸田前政権の実績も評価されることになる。
岸田前首相は防衛力を強化する方向にかじを切り、原発を最大限活用する方針に転換した。賃上げの流れを強めたが、物価の上昇に追い付かなかった。
国民に負担を求める異次元の少子化対策や防衛増税を巡る議論は乾いていない。こうしたことを有権者はどう見るか。
大きな争点は、派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」の問題への対応だ。
石破首相は裏金議員を非公認にしたり、重複立候補を認めなかったりした。公約には、政策活動費の廃止も念頭にした透明性確保や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開などを盛った。
カネを巡る問題を何度も起こしてきた自民に、今度こそ決別しようとの覚悟はあるのか。厳しく見ていかねばならない。
◆弱い野党からの脱却
自民政治が問題を抱えながらも一定の支持を得て、公明党との連立政権が続いている理由の一つには野党の弱さがある。
安倍晋三政権の「1強」時代からしばしば見られる自民の強引な政治手法や熟議の欠如を、バラバラになって「多弱」化した野党は止められなかった。
元首相の野田佳彦氏が代表に就いた野党第1党の立憲民主党は裏金事件で自民への批判を強め、「政権交代こそ、最大の政治改革」と訴える。
現実問題として政権交代には日本維新の会や共産党、国民民主党など他の野党との選挙協力が不可欠だが、難航している。
野田代表は「政権を取れるめったにないチャンスが来ている」と語っていたものの、他党を納得させるような気迫はこれまでのところ伝わってこない。
裏金事件という敵失を追い風にして、議席を増やせるかどうか。野党の動向にも目を凝らしていきたい。
与野党問わず求めたいのは、政策を競い合い、活発に論戦を交わすことだ。
変化の激しい社会のひずみで困っている国民は多い。物価高は家計を苦しめている。
国民の生活を守るため、経済の好循環をどう実現するか、農林漁業をどう振興するか、人口減少をどう食い止めるか。
他にも原発の再稼働問題や北朝鮮による拉致問題、厳しさを増す安全保障環境、世界の紛争への対応など、争点は多い。
県内では今回から区割りが見直され、従来の6小選挙区が5小選挙区に減る。自民と立民、維新、共産、無所属の候補が未知の戦いに挑む予定だ。
選挙の結果は私たちの生活に影響する。それを忘れず、それぞれの主張に耳を澄ませたい。