本格的な山菜採りのシーズンが近づいてきた。魚沼地域で勤務していたころ、知り合いに連れられて山あいのやぶに足を踏み入れたことを思い出す。地元で「木の芽」と呼ばれるアケビの新芽を夢中になって摘んだ

▼草木が生い茂るやぶは、かつては至る所にあった。「藪」とか「薮」の字が入った地名もある。慣用句では「やぶ医者」などに使われる。この場合のやぶは「草深い田舎」を意味するようで、田舎の医者だから腕が悪いとやゆしている。田舎にはずいぶん失礼な言いぐさだが

▼「やぶから棒」とも言う。こちらは「見通しの悪い場所」を指し、そんな所から棒が突き出てくる様子から「突然」「だしぬけに」といった意味になる。では「やぶへび」は。やぶをつついてヘビを出す、すなわち余計なことをして、かえって災いを呼ぶとの意味だ

▼ロシアにとっては、まさしく「やぶへび」といえるのではないか。北欧のフィンランドとスウェーデンの首脳が北大西洋条約機構(NATO)加盟の意欲を示した。ロシアのウクライナ侵攻が招いた事態だ

▼ロシアが侵攻に踏み切った目的の一つは、NATO拡大を阻止することだった。しかし欧州の非加盟国の目には、NATOに加わらないとウクライナのようになりかねないと映ったようだ

▼ロシアは強く反発しているが、北欧2国が加盟すればNATOの包囲網はさらに広がり、ロシアにとって脅威となる。力に任せて隣国を踏みにじった行為の代償は、相当に大きくなりそうだ。

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