能登半島地震が起きる前日の昨年12月31日、旧ツイッターのXに、ある投稿があった。石川県能登町の変電所で爆発音があったというネット上の記事が削除されたことを疑問視していた

▼うわさが広がった。「爆発音」は「人工地震」と関わりがあり、隠蔽(いんぺい)するため記事が削除された-。実際には、停電は起きたが変電所のトラブルは確認されなかった。記事を出した地元放送局は、爆発音が聞こえたという通報が消防に寄せられ停電もあったので報道したが、変電所に異常がなかったため記事を削除したという

▼「陰謀論」は社会現象や事件の裏側には何者かの企てがあると考える言説を指す。「人工地震」のうわさを信じた人の中には陰謀論と指摘されても耳を貸さない人もいたようだ。2021年の米議会襲撃事件の背景には、大統領選の票が不正操作されたとの主張があったとされる

▼何かに不満を持つ人にとって陰謀論は心の安定につながる側面もあるという。だから反証を示して事実ではないと指摘しても納得させるのは難しいと考えられてきた

▼ただ米国の研究チームによる、こんな研究結果も先日発表された。根拠を挙げて反論する人工知能(AI)と短時間対話してもらうと、陰謀論への「確信度」が平均21%減ったという。やはり的確な根拠こそが大切ということか

▼一方でチームは、反対にAIで怪しい主張を信じ込ませるような悪用も十分あり得ると指摘している。つくづく、難しい時代になったと言わざるを得ない。

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