台湾への武力威圧は東アジアの緊張を高めるだけだ。日本をはじめ周辺諸国に多大な影響を及ぼす。台湾海峡の平和と安定に向け、中国政府は台湾と対話することをまずは心がけてもらいたい。
中国軍が台湾を包囲する海空域で軍事演習を実施した。
戦闘機や無人機など延べ125機の軍用機をはじめ、台湾周辺で展開した中国軍や海警局の艦船は、いずれも1日の数としては過去最多だった。空母「遼寧」から離艦し、台湾東部の空域に入った戦闘機もあった。
圧力一辺倒の戦略をさらに鮮明にしたといえる。
中国軍は、演習区域もこれまでより範囲を拡大し、台湾本島に近づけて設定した。
台北や高雄など6都市の沖合に演習区域を設定し、港湾封鎖をシミュレーションした。資源が乏しい台湾に対しエネルギー輸入を阻止し、経済と社会に重大な影響を及ぼす狙いがあるようだ。
封鎖だけでなく、海上や陸上からの打撃も訓練項目に加わった。視認性の悪い夜明けに演習を始めるなど、いかなる条件下でも訓練から実戦に移行できることをアピールした。
台湾の識者は、「台湾を攻める実戦的な戦術を訓練しており、脅威は大きい」と分析している。武力統一への能力を着々と高めているとみられる。
今回の演習は、台湾の頼清徳総統が「中華民国建国113年」の祝賀式典で、「中国には台湾を代表する権利はない」と述べ、中台を不可分の領土とする「一つの中国」を認めない立場を強調したことへの対抗措置だ。
中国の習近平指導部は、民主進歩党(民進党)の頼氏を台湾独立派とし敵視している。5月に頼氏が就任した際も演習を行った。
中国と台湾との交流は、民進党の蔡英文前総統の時から途絶えている。建設的な対話に向けた双方の努力が求められる。
気になるのは、中国軍とロシア軍が連携した動きをしたとみられることだ。
ロシア軍艦船が、中国軍が演習を行った日に、沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過した。
台湾の国家安全当局は、台湾有事が発生した際に、日本の自衛隊を近づけないための訓練にも見えると指摘し、警戒感を示した。
日本や米国、欧州連合(EU)が、演習への懸念を相次いで表明し、自制を求めたことは当然だ。
これに対し中国外務省は「台湾は中国の一部だ。内政干渉は認めない」と反応した。
とはいえ、中国は海洋進出を強め、南シナ海では度々フィリピン船と衝突している。
武力や威嚇による一方的な現状変更は、国際社会に受け入れられない。中国は大国としての範を示してほしい。