あすの食を国民に案じさせぬために、どう農業を再生し、コメの安定供給を図り、食料安全保障を強化するか。実現に向けた骨太な論争を望みたい。
主食のコメを中心とした農業政策と食料安保が、衆院選での重要論点になっている。
2023年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%と低い中、ロシアのウクライナ侵攻を受けた小麦価格の高騰などで、輸入依存度の高い食料の安定供給に危機感が高まっている。
一方、自給率100%のコメは生産が揺らいでいる。23年産米は猛暑と少雨などで、コシヒカリの1等米比率が極端に低下し、本県の多くの生産者が打撃を受けた。今夏は全国的に品薄となった。
衆院選公約では、与野党ともに食料安保の強化に関してはほぼ一致しているものの、手法では政党間に差がある。
コメ政策を巡っては、政府は18年度に生産調整(減反)を廃止したが、主食用米の生産抑制を誘導する事実上の減反政策を続ける。
自民党は需要予測に応じた生産を進め、農産物の輸出拡大による需要拡大を図るとする。連立を組む公明党も輸出拡大に言及する。
野党の立憲民主党は旧民主党政権時代に行った戸別所得補償をバージョンアップし、農地に着目した直接支払い制度を構築するとした。国民民主党は新たな直接支払い制度導入を、社民党は所得補償制度復活をそれぞれ訴える。
日本維新の会は水田の畑地化に反対し、コメの生産量1・5倍を目指すと強調する。
食料自給率については、自公は数値目標を明記せず、立民や国民、れいわ新選組、社民はそれぞれ50%への引き上げを打ち出した。共産党は60%を目指すとし、参政党は現在の倍増を主張する。
選挙戦では、財源も含めたビジョンを丁寧に説明してほしい。
農林水産省によると、出荷団体と卸売り業者が売買する「相対取引価格」は24年産米の9月の全銘柄平均が玄米60キロ当たり2万2700円だった。1993年の「平成の米騒動」以来31年ぶりの高値とみられる。
長年コメは、人口減や食習慣の変化による需要減退が問題視され、消費拡大が課題だった。
コスト高に苦しむ生産者にとって値上がりは歓迎できる半面、高止まりが続けば、消費者のコメ離れが進む恐れもある。
担い手不足対策も急務だ。若い世代の就農を促すには、稼げる農業に向けた施策が欠かせない。
省力化へスマート農業が注目されるが、機材購入費の工面などの課題もあるだろう。
各党や候補者には、生産者と消費者の実情を見据え、地に足の着いた論戦を展開してもらいたい。