多くの子どもがそうであるように、夜中に目が覚めてトイレへ行くのが怖かった。勇気を出して階段を降りる。タイミング悪く、床が「ミシッ」と音を立てると生きた心地がしなかった

▼天井の模様が顔に見え、窓の外で揺れる枝に誰かの気配を感じた。幽霊の正体見たり枯れ尾花-。心の動揺がいろんなものをお化けに見立ててしまう。怖がるあまり、現実をゆがめていたことに気付くのは随分と後になってからだ

▼遊び心で見立ての力を発揮したアート作品もある。見立て作家の田中達也さんにかかると、身の回りの品や食べ物がまったく別の世界に生まれ変わる。新潟市新津美術館では田中さんの作品展の第2弾が開催中だ

▼ジーンズはサーフィンの巨大な波に、板チョコはドラキュラのひつぎに、積み上げられたさいころは摩天楼に見立てられた。周辺には小指の先ほどの人形が配置され、ユーモアあふれるミニチュア世界が出現する。見る側の固定概念を柔らかく壊してくれる。それが心地いい。絶妙なタイトルにもクスッとさせられる

▼田中さんによると枯れ山水の庭が古くから親しまれるように、見立ては日本人にとってなじみの深い行為だ。外国語には見立てに相当する単語があまり見当たらないようだから、日本特有の感性なのだという

▼会場には、トイレをモチーフにした作品もあった。幼いころにこんな楽しい世界観に触れていれば、失敗せずに済んだのかも。世界地図に見立てた作品を布団に描いたことがよくあった。

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