物事に取り組む際は、ほどよく緊張した方がうまくいくという。過度に緊張すると身体が硬くなったり、冷静な判断ができなくなったりする。しかし適度な緊張は集中力を研ぎ澄まし、効率や成果を高めるそうだ

▼思えば、ここしばらくの政界は緊張感が足りていなかった。巨大与党は「1強」状態の下、さしたる議論もないまま重要方針を決めたり、スキャンダルが浮上しても強引に幕引きを図ったりした。野党からも、政権を奪取するという気概や覚悟が見えないままではなかったか

▼与党の「緩み」や「たるみ」を象徴したのが、自民党の派閥裏金事件をはじめとする「政治とカネ」の問題だった。国民の怒りの大きさを見誤り、非公認候補の支部への2千万円支給も駄目押しとなって、今回の衆院選は過半数割れという手痛い結果を招いた

▼有権者の審判により、政界の緊張感はにわかに高まった。今後の政権の姿は見通せない。自公が政権を維持しようとすれば一部野党の協力を得ねばならない。政権交代の可能性もあるとはいえ、これも複数の野党がまとまる必要がある

▼多くの選択肢があるが、どれも相当の困難を伴うのだろう。特別国会での首相指名に向け、陰に陽に激しい多数派工作が繰り広げられるはずだ。第1党である自民にしても、内部抗争の火種を抱える

▼いまの政界を包むのは、良い緊張感か、悪い緊張感か。頭も心も固まって、的確な判断ができなかったり、身動きできなくなったりする事態は目にしたくない。

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