原発に絶対的な安全はない。事業者や関係者はそのことを心に刻み、住民の不安を拭う取り組みに力を尽くしてもらいたい。

 東北電力は、運転停止中だった宮城県の女川原発2号機を29日、再稼働させた。

 再稼働は、2011年3月に起きた東日本大震災の被災地に立地する原発で初めてだ。過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉としても全国初で、一つの節目となる。

 女川原発は東日本大震災の震源に最も近い原発で、最大約13メートルの津波に襲われた。敷地の海抜は津波より高かったが、冷却用水を取り込む取水路から流入した海水で原子炉建屋地下が浸水した。

 5回線あった外部電源は4回線が停止し、残った電源で冷却を維持して1~3号機を冷温停止させた。事故を防ぐことはできたが、間一髪の状況だったと言える。

 東北電はその後、11年の歳月と約5700億円をかけ、国内最大級となる海抜29メートル、総延長800メートルの防潮堤を整備するなど、大規模な安全対策工事を施した。

 ただ、手厚い対策を講じたとしても、リスクがゼロであるという根拠にはならない。

 元日の能登半島地震では、石川県の北陸電力志賀原発周辺で原発事故時の避難道路が寸断され、自治体が策定した避難計画の実効性に疑問の声が上がっている。

 女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島に立地し、地理的な条件は能登と同じだ。事故が発生した場合、半島南部からは原発のそばを北上しなければ避難できないといい、住民の不安は大きい。

 政府は「昨年12月に女川の避難計画を改定し、海路の避難経路を多重化するなど充実化に取り組んでいる」と強調するが、改定後に起きた能登半島地震の教訓は反映されていない。国や県、事業者は計画を再確認する必要がある。

 女川原発で今年、機器が計画外に作動したり、原子炉の出力を制御する「制御棒」を動かす装置の弁が水漏れしたりするトラブルが相次いでいることも気になる。

 ミスやトラブルが続くと住民の不安は膨らむ。事業者は気を引き締めて当たらねばならない。

 国は脱炭素対策などを理由に原発の最大限活用を進める方針で、12月上旬には女川2号機と同じ沸騰水型の中国電力島根原発2号機の再稼働が予定される。東電が再稼働を目指す本県の柏崎刈羽原発7号機も沸騰水型だ。

 ただ柏崎刈羽を巡っては、東電によるトラブルや不祥事が相次いだことで地元の不信感が根強く、避難対策などにも課題がある。

 被災地で原発が再稼働しても、福島事故で原発の安全神話が崩壊した事実をゆるがせにはできない。二度と過酷事故を起こさないために、安全面の検証や情報公開の徹底が一層強く求められる。