証券市場の信頼性を揺るがしかねない事態だ。高い職業倫理、規範意識を求められる者がどうしたことか。金融庁や東京証券取引所などは疑惑の解明と再発防止に力を尽くさなければならない。
金融庁に出向中の裁判官と東証の社員、三井住友信託銀行の社員による金融商品取引法違反(インサイダー取引)疑惑が相次いで明らかになった。
裁判官は、職務中に知った株式公開買い付け(TOB)などの企業情報を基に株取引をした疑いがあるとして、証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。
出向先の金融庁で企業開示課課長補佐を務め、TOBを予定する企業から提出された書類の審査などを担当していた。自己名義で株取引を繰り返し、利益を得た疑いが持たれている。
一方、東証の社員は業務で知った未公表の企業情報を親族に漏らしたとして、同じくインサイダー取引の疑いで監視委による強制調査を受けた。
社員は上場企業が公表する「適時開示」を担当する部署に所属していた。複数銘柄の情報を親族に伝え、その情報を基に株取引した親族が少なくとも数十万円の利益を得た疑いがあるという。
三井住友信託銀では、管理職の社員がインサイダー取引をしていた疑いが判明した。信託銀行は株式に関する事務を担う証券代行業務を手がけている。社員は1日に懲戒解雇された。
上場企業の「重要事実」を公表前に入手し、その情報に基づいて株を売買するインサイダー取引は禁じられている。第三者に利益を得させるため情報を伝えたり、取引を勧めたりすることも同様だ。
証券市場の管理や運用などに関わる3人がこのことを知らないはずはない。疑惑が事実であり、自身や親族の利益を図るためにルールを破っていたのであれば、それは決して許されるものではない。
事は信頼性という市場運営の根幹に関わる問題でもある。金融庁と東証、三井住友信託銀はそれぞれの事実関係をつまびらかにしなければならない。
個人の問題に矮小(わいしょう)化することなく、内部管理体制を再確認し、再発防止策を強化する必要がある。
監視委にも丁寧かつ徹底的な調査を求めたい。
政府は「資産運用立国」を掲げ、「貯蓄から投資へ」の流れを推進してきた。優遇措置を拡充した新しい少額投資非課税制度(NISA)が1月に始まって以降、新たに証券投資を始める個人投資家は増えている。
重要情報を知る一部の者が得をするインサイダー取引は一般投資家への裏切りであり、市場の公正性をゆがめることでもある。
公平性を欠く市場からは投資家が離れてしまう。関係者は改めて肝に銘じてほしい。