女性を差別する見えない「圧力」が社会に存在していると指摘した。政府は真摯(しんし)に受け止めて改善を図り、ジェンダー平等の実現に取り組まなくてはならない。

 国連の女性差別撤廃委員会が、女性差別撤廃条約の履行状況について8年ぶりに日本を審査し、厳しい内容の最終見解を示した。

 夫婦同姓を義務付ける民法の規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入するよう勧告した。同様の勧告がされるのは4回目で、委員会は「これまでの勧告に対し、何の行動も取られていない」と日本側の姿勢を批判した。

 繰り返し指摘されたことで、日本が男女平等の取り組みに消極的な国だという印象が強まる。政府と国会は勧告を踏まえて検討を加速させねばならない。

 審査では、婚姻時にほとんどが夫の姓を選ぶ現状を、委員が「社会的な圧力だ」と指摘した。

 そうした状況の背景には、家父長制に基づく男女の役割への固定観念が根強く社会に残っていることがある。選択的夫婦別姓には、「伝統的な価値観を損なう」といった反対論もある。

 しかし働く女性が増えるなど環境は変わっている。姓の変更は行政手続きの不便にとどまらず、仕事でも不利益があるとして、今や経済界も導入に前向きだ。議論を前に進める時にあるだろう。

 勧告は、人工妊娠中絶の配偶者同意要件の撤廃や、緊急避妊薬(アフターピル)を入手しやすい環境づくり、沖縄の米兵による性暴力の適切な処罰の必要性など、多岐にわたった。

 国会での男女平等に向けて、女性が選挙に立候補する場合、300万円の供託金を一時的に減額する措置を取ることも求められた。

 10月の衆院選では、女性候補者を35%とする政府目標に、多くの政党が届かなかった。女性当選者は過去最多の73人となったものの、全体の16%に過ぎない。

 女性議員を増やすにはどうしたらいいか。供託金を減額する手法の是非を含め、具体的な方策を考えてもらいたい。

 委員会は、男系男子に皇位継承を限る皇室典範の規定も、女性差別撤廃条約の理念と「相いれない」と指摘し、改正を勧告した。

 これには林芳正官房長官が「大変遺憾だ」と述べ、削除を申し入れたと明らかにした。国家の基本に関わる事項で、取り上げるのは適当ではないとの判断だ。

 皇室典範を巡っては、8年前の前回審査でも、改正勧告を盛り込む最終見解案が示されたが、日本側が強く抗議し、記述が削除された経緯がある。

 勧告は、日本に対する国際社会の見方を示すものと受け止めたい。性に基づく排除や制限、区別を「差別」と定義する条約の理念に合致するかどうか。あらゆる場面で考えなくてはならない。