対立をあおり分断を深めるのではなく、世界の超大国として、国際秩序の安定に力を尽くしてもらいたい。「米国第一」を旗印に、世界を振り回す事態を招くならば歓迎できない。
5日投開票の米大統領選で、共和党候補のトランプ前大統領が民主党候補のハリス副大統領を破り、勝利したと主要メディアが6日報じた。共和党が4年ぶりに政権を奪還した。
トランプ氏は来年1月に第47代大統領として就任式に臨む。返り咲きは異例で、史上2人目、132年ぶりとなる。
◆不満の受け皿に成功
トランプ氏は支持者を前に勝利宣言し「米国を再び偉大な国にする」と述べた。
選挙戦では、バイデン民主党政権下でインフレが進んだと批判を強め、メキシコと接する南部国境で不法移民の流入が急増したと訴えた。
被害者意識を駆り立て、有権者の不満をすくい上げることに成功したと言えよう。
今年7月に選挙集会で暗殺未遂に遭った際には、ひるまずに強い指導者像を打ち出し、求心力を高めてバイデン大統領を撤退に追い込んだ。
トランプ氏は2021年の議会襲撃など4事件で起訴され、不倫口止めでは有罪評決も受けている。大統領在任中に2度弾劾訴追され、大統領としての適格性には疑問符が付く。
しかし、そうした素行に目をつぶり、有権者がトランプ氏を選んだのは、現状打破を求める空気が米社会に蔓延(まんえん)していた表れとみていいだろう。
一方のハリス氏は、バイデン氏に代わって初の女性大統領を目指したが及ばなかった。
政権ナンバー2を4年間務めながら目立った業績を残せず、人気が低迷したバイデン氏との違いを示せなかったことが大きい。インフレや不法移民対策を巡って批判の的になった。
共和党が政権を奪還することにより、米国が大きく揺り戻されることは必至だ。
トランプ氏は不法移民の大規模な強制送還や国境封鎖といった強硬姿勢を打ち出すほか、人工妊娠中絶の権利について各州に規制の判断を委ねるとしている。性的少数者の権利拡大にも反対している。
多様性重視を掲げる民主党政権から転換するが、社会の分断と対立が一段と深まることは避けなくてはならない。
勝利宣言で「今こそ4年間の分断を過去のものとし、結束するときだ」と述べたトランプ氏の真偽が問われる。
◆「米国第一」懸念強く
米国の政策転換が日本に及ぼす影響も注視される。
経済政策では、トランプ氏は自由貿易に背を向ける保護主義的な姿勢が鮮明で、従来「米国第一」主義を土台にしてきた。
新政権では国際協調の枠組みからの離脱や、高関税の導入で世界経済を翻弄(ほんろう)していく展開が想定されている。
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画についても反対を表明している。今後は日鉄に限らず、企業活動が阻害されることに注意が要る。
安全保障政策では、同盟国に対して負担増を迫る方針で、日本には米軍駐留経費の負担増を持ち出すことが予想される。
トランプ氏がかつて政権にあった際には、当時の安倍晋三首相と関係が良好だった。
日本は石破茂政権発足から間がないが、トランプ氏の人となりは分かっている。政府は情報を集め、トランプ氏側との関係構築に力を注がねばならない。
注目されるのは、国際協調路線だったバイデン政権から大転換となる外交政策だ。
トランプ氏はウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領と関係が良好だとし、停戦仲介に意欲を示すが、プーチン氏寄りの終戦案を進めかねない。
そうなれば、北大西洋条約機構(NATO)など西側諸国との結束に亀裂が入る。
パレスチナ自治区ガザでの戦闘でも「中東の問題を速やかに終わらせる」とするものの、イスラエル寄りの姿勢がはっきりしており、ガザの人道状況悪化が危惧される。
中国に対しては、1期目より敵対的姿勢を見せている。対中関税の引き上げを掲げるが、台湾問題をカードに使うといった取引に出れば、日本もあおりを受ける可能性がある。
2期目は、自国だけでなく、世界の安定を見据えた指導者になることが求められる。