日本の酒造り文化の素晴らしさが世界に認められることになる。酒どころの本県にとっても朗報だ。新潟清酒の国内消費と輸出の拡大、さらには地域活性化につなげる好機としたい。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関は、日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録するよう勧告した。12月のユネスコ政府間委員会で正式決定する見通しだ。

 正式に決まれば、歌舞伎や小千谷縮・越後上布、和食などに続いて国内23件目となる。

 風土や気候などに結びついた酒造りは国内各地で行われている。日本酒の国内消費量は1970年代をピークに下降線をたどっているが、登録を機に改めて目を向け、親しみたい。

 伝統的酒造りは、こうじ菌を使ってコメなどの原料を発酵させる日本古来の技術だ。複数の発酵を同じ容器の中で同時に進める世界でも珍しい製法を用いている。

 勧告は、こうした酒造りの知識と技術が「個人、地域、国の三つのレベルで伝承されている」とした上で「社会にとって強い文化的意味を持つ」と評価した。

 さらに、祭事や婚礼など日本の社会文化的行事に酒は不可欠であり、酒造りが地域の結束にも貢献しているとした。

 技を伝えてきた杜氏(とうじ)や蔵人らの努力のほか、酒造りが社会で果たしてきた役割が高く評価されたと言える。うれしい限りだ。

 酒造りの無形遺産登録は、本県にとってはとりわけ意義が深い。本県の日本酒の国内出荷量は兵庫県、京都府に続く全国3位で、酒蔵の数は全国1位の89に上る。

 大規模な酒造会社がある兵庫や京都に比べ、規模の小さい酒蔵が多いのが特徴だ。ユネスコ評価機関が指摘する「地域の結束」に貢献している蔵は多い。

 何より特徴的なのは「淡麗辛口」「新潟淡麗」と評されるすっきりとした味わいだ。量より質を追求する傾向が強く、高品質の吟醸酒や純米酒が多く生産されている。

 良質なコメと水、越後杜氏の技に加え、県酒造組合、県醸造試験場、新潟大学日本酒学センターなど、産官学が協力して新潟清酒ブランドを築いている。

 国内出荷量は減少傾向だが、輸出は増加傾向にある。県産日本酒の2023年の輸出量は3024キロリットルで、22年の3099キロリットルに次いで過去2番目に多かった。

 海外の和食ブームと円安が追い風となっており、拡大の余地が大きいとみられている。

 多くの酒蔵は、雇用や酒米作りなど経済面でも地域に大きな貢献をしている。無形遺産登録の効果を生かせば、輸出だけでなく外国人観光客の増加につなげることもできるだろう。

 酒蔵が地域振興のけん引役となってくれることにも期待したい。