選挙戦の「論功行賞」や「イエスマン」で周囲を固める人事だ。担当能力を巡り不安の声が出るのも当然だろう。

 共和党の大統領に対し上下両院も共和党が多数を占め、議会の監視機能が弱まる恐れがある。大統領が過激な政策に走った場合に歯止めをかけられるか懸念される。

 トランプ米次期大統領が、来年1月発足の第2次政権の閣僚や高官らを相次いで発表している。

 大統領選で巨額の献金をして積極的に支援した実業家イーロン・マスク氏を、政府業務の効率化を担う新組織のトップに起用する。

 厚生長官には弁護士ロバート・ケネディ・ジュニア氏を充てる。ケネディ氏は民主党から無所属に転じて大統領選に出馬したものの、その後に撤退し、トランプ氏の支持に回った。

 両氏とも論功行賞が鮮明な人事といえよう。

 ケネディ氏は新型コロナウイルスのワクチン懐疑派だ。医療関係者らは、ワクチンへの不信や事実に基づかない情報を拡散しかねないと不安視している。

 国防長官には保守系テレビニュースの司会者ピート・ヘグセス氏の起用が明かされた。トランプ氏に忠誠を誓う人物だ。

 国防長官は軍指令官経験者や国防総省出身者、連邦議員などが就くことが多いのに、ヘグセス氏は陸軍州兵の経験があるだけだ。国防関係者に衝撃を持って受け止められたのもやむを得まい。

 司法長官にも忠誠を誓った元下院議員が指名されたが、過去には違法薬物使用や児童買春疑惑で下院の調査対象になった。適材適所なのか大いに疑問だ。

 大統領選と同時実施された連邦議会選の上院と下院とも共和党が多数を占めた。共和党は大統領選と合わせ三つを独占する「トリプルレッド」を達成した。

 トランプ氏にとっては盤石な政治基盤となり、公約に掲げた関税強化や、移民問題などを巡る政策実現に邁進(まいしん)できる環境が整った。

 心配なのは、第1次トランプ政権時代には共和党内でトランプ氏のブレーキ役を担った穏健派や批判的な議員が、第2次政権ではいなくなることだ。独裁色を強めないか危惧される。

 トランプ氏が掲げる「米国を再び偉大に」の頭文字から「MAGA(マガ)」と呼ばれる勢力が発言力を強めるのは必至だろう。

 トランプ氏を支持する保守団体はトランスジェンダーの軍の入隊禁止など、性的少数者の権利を剝奪する極端な構想を練っている。

 少数派を差別する政策を遂行し、社会の分断を深めないよう、議会にはしっかりとチェックすることが求められる。

 議会がトランプ氏の追認機関に成り下がれば、民主主義陣営をリードしてきた米国への国際社会の信頼が失われるに違いない。