結果は大勝ではあるが、市民が東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題を無条件で容認したわけではないだろう。前のめりに再稼働を急ぐのではなく、丁寧に民意と向き合う努力を続けてもらいたい。

 任期満了に伴う柏崎市長選は、現職の桜井雅浩氏が新人2人を破り、3選した。原発再稼働を条件付きで容認する桜井氏が、再稼働反対を掲げた次点の新人に2万票以上の大差をつけた。

 ただ、市民の中には再稼働に慎重な考えの人が一定数存在していることは間違いない。

 新潟日報社が市長選の投票所で行った出口アンケートでは、柏崎刈羽原発の再稼働に「賛成」と答えた人は「どちらかといえば」とした人を含めて49・5%となり、「反対」は「どちらかといえば」を合わせて34・8%だった。

 桜井氏に投票した人でも、2割超が再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた。桜井氏に一票を託した有権者の複雑な思いがうかがえる。

 53・70%と過去最低の投票率が示す通り、告示4日前に対立候補が決まった選挙戦は盛り上がりを欠き、原発を巡る論戦もかみ合わなかった。桜井氏が「フリーハンド」を得たとは言い難い。

 再稼働問題を巡っては、県内での議論が乾いているとは言えない現状も無視できない。

 柏崎刈羽原発から半径5~30キロ圏の避難準備区域(UPZ)では重大事故時の避難態勢などへの懸念が依然として残る。

 特に豪雪時の屋内退避については、詳細な対応基準を求める県内自治体に対し、原子力規制委員会や内閣府の原子力防災担当が「範疇(はんちゅう)外」「解決済み」とし、認識にすれ違いが生じている。

 有事の際、実際に避難に直面するのは地元自治体であり、そこに暮らす住民にほかならない。

 原発が国策である以上、国はこうした住民の不安や要望に真摯(しんし)に向き合う必要がある。

 住民を代表する立場の首長は「再稼働ありき」ではなく、「住民第一」の姿勢を忘れずに行動することが求められる。

 今後焦点となる再稼働の「地元同意」の行方も注目される。

 花角英世知事は県民の意思を見極めたいとして、賛否を明らかにしていない。これに対し、桜井氏が公の場で不満を述べ、足並みの乱れが露呈している。

 拙速ではなく、冷静に、じっくりと話し合うべきだろう。

 桜井氏が選挙戦で自ら指摘していた通り、市政が抱える問題は原発以外にも山積している。

 柏崎総合医療センターの在り方やまちなかの衰退をどうするのかは、いずれも喫緊の課題だ。

 桜井氏は、民意の重みを胸に刻み、市が抱える課題をどう解消していくのか、方向性と具体策を示す責任がある。