返り咲きを果たしたとはいえ、疑惑が晴れたわけではないことを肝に銘じるべきだ。

 混乱続きの県政の立て直しに向け、知事は県議会や県職員との信頼構築に力を尽くさねばならない。それには知事が県議会の追及に真摯(しんし)に応じることが第一だ。

 兵庫県知事の失職に伴う出直し知事選で、前職の斎藤元彦氏が、6新人を破り再選した。

 19日の就任式で斎藤氏は「謙虚な気持ちで丁寧に対話を尽くす」と抱負を述べた。

 斎藤氏が失職したのは、パワハラなどの告発文書を公益通報として扱わず、作成した元県幹部を懲戒処分としたことが発端だった。批判が噴出し、県議会が不信任決議を全会一致で可決した。

 県の対応は公益通報者保護法に違反するとも指摘され、県議会調査特別委員会(百条委員会)で数々の疑惑を県職員に証言されるなどしていた。

 再選を受け、百条委は25日にも斎藤氏への証人尋問を行う。パワハラや、元幹部を処分した経緯、昨年11月のプロ野球2球団の優勝パレード経費を巡る不正疑惑を追及する方向だ。

 気がかりなのは、県議会の追及姿勢が失速していることだ。

 全会一致で知事を失職に追い込んだが、知事選の期間中から一枚岩ではなくなっているという。

 選挙戦で当初劣勢だった斎藤氏が、本命視されていた対抗馬に猛追していることが伝わると、支持に回る県議もいた。

 再選したとはいえ、疑惑の存在は選挙前と何ら変っていない。百条委は選挙結果におもねることなく、真相に迫ってもらいたい。

 斎藤氏は選挙戦で、議会への対抗姿勢を鮮明にした。自らの正当性を強調する流れで、亡くなった告発者を非難する発言も目立つようになった。

 こんな姿勢で2期目に臨めば、議会との関係がこじれている中、さらなる混乱を招きかねない。

 斎藤氏は出馬会見時に文書問題の究明を「県民への約束」として掲げたことを思い出すべきだ。

 選挙戦略として斎藤氏は交流サイト(SNS)を駆使し、街頭演説で「たった1人」を強調した。

 政治団体党首の立花孝志氏は、自身の当選を目指さずに、斎藤氏支援を目的に出馬し、情報発信に加勢した。

 選挙戦では、デマや真偽不明の情報が拡散し「事実」のように受け取られた。

 百条委の委員で疑惑を追及していた県議は、ネット上で誹謗(ひぼう)中傷されるなど、生活を脅かされたとして議員を辞職した。

 民主主義の根幹が揺らぎかねない事態で、由々しきことだ。

 選挙とSNSの在り方は今後、議論を深める必要がある。有権者側にも真偽を見極める力が求められているのではないか。