手取りを増やすための引き上げに合意したことは前進だが、詳細は未定でどう具体化するか見通せない。実現には政府が責任を持って財源を確保する必要がある。

 年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の問題で、自民、公明、国民民主3党が経済対策に額の引き上げを明記することで合意した。

 経済対策の裏付けとなる2024年度補正予算案の早期成立へ、3党で協力することも確認した。

 経済対策では、少数与党の自公が国民民主に譲歩し「手取りが増え、豊かさが実感できるようさらに政策を前進させる」と原案を修正した。103万円の壁は「25年度税制改正の中で議論し引き上げる」と記した。

 安定した政権運営と「部分連合」の構築を図りたい自公と、衆院選公約の実現を目指す国民民主の思惑が一致した結果と言える。

 共同通信社の今月の世論調査では、壁の見直しへの賛成は「どちらかといえば」を合わせて69・9%に上った。30代以下の若年層は「賛成」が「どちらかといえば」を含め79・7%を占めた。

 若い人ほど、壁が原因となる働き控えの解消や手取り増加に期待が大きい実態がうかがえる。

 だが、現時点では引き上げに合意しただけで、非課税枠の上げ幅や財源など詳細は何も決まっていない。25年度税制改正の議論で、国民の期待に沿う内容に改正されるかは不透明だ。

 引き上げに伴い必要となる財源がしっかり確保されるかどうか、注視しなくてはならない。

 政府試算では、国民民主が求めるように所得税の非課税枠を178万円に引き上げた場合、国と地方を合わせた減収は年7兆~8兆円になるという。

 地方税収の大幅減は必至で、本県では、個人県民税と、県内市町村の市町村民税で計700億~800億円の減収となる。

 花角英世知事は「とてものみ込めるものではない」と訴え、他の知事からも「減税だけ主張して、後は知りませんでは責任感に欠ける」などの声が上がる。自治体が不安視するのはもっともだ。

 経済対策では、ガソリン減税の検討も盛り込む。通常税率に上乗せする「暫定税率」の廃止を含む自動車関係諸税全体の見直しに向けて、結論を得るとした。

 暫定税率を廃止した場合、国と地方の税収は年約1兆5千億円減ると試算される。

 これらに代わる財源を見つけるのは至難の業だ。国と地方の長期債務残高は24年度末時点で1315兆円に達する見込みで、赤字国債を発行して借金を重ねれば、次世代に負担をつけ回し、財政状況は一層深刻な事態に陥る。

 政府は聞こえのいい政策を掲げるだけでなく、財源や財政状況を見据えた検討が求められる。