ロシアとウクライナ双方の攻撃の応酬が激化し、歯止めがかからない状況を、深く憂慮する。支援国は、殺傷能力の高い武器を供与するよりも、戦闘を止める方向へ力を傾けるべきだ。

 ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、最新の中距離弾道ミサイルで、ウクライナ東部ドニプロのミサイル製造施設を攻撃したと発表した。

 ミサイル防衛システムで迎撃不可能なマッハ10(音速の10倍)で飛行する極超音速ミサイル「オレシニク」を使ったと説明し、ウクライナが米欧製の長射程兵器でロシア領を攻撃したことへの報復だと主張した。

 これに先立ち、バイデン米大統領が、射程300キロの米国供与の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」によるロシア領攻撃を容認した。

 ウクライナ軍は、ATACMSや、英国製の空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」をロシア領内に向け発射していた。

 ロシア領内に欧米のミサイルが使われた初のケースだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ATACMSなど持っている長射程兵器は全て使う」と述べている。

 戦争は新たな局面に入り、緊迫の度合いがますます高まったといえるのではないか。

 ロシア軍は、ウクライナ東部で前進を続け、占領地を拡大している。ウクライナの越境攻撃で一部を制圧されたロシア西部クルスク州には、北朝鮮兵を投入した。

 バイデン氏が長射程兵器の容認に踏み切ったのは、ここ数週間で攻勢を強めているロシアに危機感を募らせたことが背景ある。

 軍事支援に消極的とされるトランプ次期大統領の来年1月の就任前に、駆け込みで支援強化を図る狙いもあるのだろう。

 懸念されるのは、米国の長射程兵器の攻撃容認に合わせた形で、プーチン氏が核の威嚇を強めたことだ。核兵器使用の基準を定めた「核抑止力の国家政策指針」を改定し、核攻撃に踏み切る軍事的脅威の条件を拡大した。

 核兵器の使用は断固として認められない。これ以上攻撃が激化しないよう互いの自制を求めたい。

 米国は対人地雷の供与も追加した。ウクライナの防衛能力を高める狙いだが、地雷は民間人にも被害が及ぶ恐れがあり、供与は人権団体から批判が出ている。

 ウクライナは対人地雷禁止条約に加盟しており、使用すれば条約違反にもなる。

 侵攻は開始から千日を超えた。米当局によると、これまでのロシア軍の死者は11万5千人、ウクライナ側は5万7500人以上と推計されている。北朝鮮兵の死傷も報じられている。

 戦禍の拡大を防ぐために、支援国を含め国際社会は、停戦への道筋を早急に模索せねばならない。