交流サイト(SNS)が情報発信や取得の有力な手段であることは間違いない。メリットは大きいが、誤った情報が多かったり、情報が偏ったりする問題もある。真偽を見極める知識と判断力が、私たち有権者には求められている。
17日に投開票された兵庫県知事選ではSNSが積極的に活用され、結果に大きな影響を与えた。
再選を果たした斎藤元彦氏は、疑惑告発文書問題で県議会の不信任決議を受けて失職し、出直し知事選に臨んだ。
県職員に対するパワハラ疑惑や、告発文書を配布した元県幹部を公益通報者保護法の対象とせず懲戒処分にした問題などで厳しい批判を受けただけに、当初は苦戦を強いられた。
流れを変えたのがSNSだ。X(旧ツイッター)では、「県議会にはめられた」「巨悪と闘う斎藤さん」などと斎藤氏を擁護し、称賛する投稿が徐々に増えた。
改革を進めようとした斎藤氏に県議会などが抵抗し、失職させられたとの構図が広く受け入れられ、大差での再選につながった。
そうした対立構図の周知に大きな役割を果たしたのは斎藤氏本人というよりも、斎藤氏を「援護射撃する」として異例の形で立候補した政治団体代表らだ。時に過激な言動を交え、ユーチューブに動画の投稿などを重ねた。
共同通信の出口調査によると、斎藤氏はSNSをよく使う10~30代で次点候補の2倍以上の支持を得た。投票率は55・65%で、前回選を14・55ポイントも上回った。
SNSを積極的に活用した候補や政党の躍進は、7月の東京都知事選や10月の衆院選でもあった。兵庫県知事選で効果がより鮮明に示されたことで、選挙での活用が今後さらに広がるとみられる。
ただ、選挙中に拡散された投稿に真偽不明な情報が数多く見られたことには懸念がある。
まだ結論が出ていないパワハラ疑惑を「なかった」と断言する投稿や、他の候補に関する事実無根の情報も飛び交った。
誹謗(ひぼう)中傷や、過激で攻撃的な投稿も多かった。斎藤氏の疑惑を追及した県議が中傷され、辞職する事態も起きた。
テレビや新聞が「真実を隠した」などとする根拠不明のメディア批判も目立った。
選挙後もそれぞれの支持者間で攻撃的なやりとりが続き、市民同士が対立する状況もあるという。社会の分断を広げてはならない。
SNSには、自分の考えに近い意見や情報が表示されやすくなり、情報が偏るリスクが指摘されている。そうした特性を十分に理解し、信頼できる情報を吟味して取捨選択する意識が大事になる。
既存のメディアは真偽不明の情報が真実かどうか検証し、分かりやすく伝える努力を続けなければならない。