朝刊のたいてい3ページ目の下の方に「首相動静」は掲載される。そこを見れば、前の日に誰が首相の元を訪ねたのか、だいたい分かる。日々数十人の名が並ぶ中、この頃は滝崎成樹氏の名を探す

▼官房副長官補の役にあり、佐渡金山の世界遺産登録に向けた作業部会のトップを任されている。ある日は、文部科学省や外務省の幹部らと官邸に入っている。登録へと進むため、何か策が話し合われたろうか。首相動静欄から佐渡へ思いを巡らす日が続く

▼しかし滝崎氏は最近、ウクライナから避難してきた人々を支援する作業部会も任された。多忙に違いない。佐渡を世界へと押す推進力という点からすると、ちょっと減速か。そう考えていたところへ心強い言葉が聞こえてきた。文化庁長官を務めた宮田亮平さんだ

▼佐渡金山は幕府財政を支え、芸術家を育む土台になったのだ、と宮田さんは言う。「明日の飯に困っていたら絵は描けない。葛飾北斎らの浮世絵は金山という財源があったからこそだ」と、新潟日報のインタビューに答えている

▼そして「浮世絵はゴッホらに影響を与え、金山が世界の豊かな芸術をつくったとも言える」と語る。日本に限らず世界の芸術の源流に佐渡があるのだ。そう聞くと、島影が一回りも二回りも大きなものに見えてくる

▼世界遺産と呼んでしまうが、正しくは世界文化遺産。金山と文化との関係をもっと語っていきたいものだ。芸術家である宮田さんが故郷佐渡への思いを込めて語ってくれたら盛り上がる。

朗読日報抄とは?