韓国が日本側主催の追悼式に参加せず、日韓両国がそろって追悼できなかったことは、残念でならない。来年からは共に追悼できるよう、両政府は良好な関係を築く不断の努力が不可欠だ。

 世界文化遺産「佐渡島(さど)の金山」に関わる全ての労働者のための追悼式が、佐渡市内で初めて開催され、日本政府代表や地元関係者らが参列した。

 韓国外務省は、開催直前になって参列を予定した駐日大使ら政府関係者や、遺族らの参加見送りを表明し、翌日に別の場所で独自の追悼行事を催した。

 不参加の理由を、追悼の辞の内容などが、世界遺産登録に賛成するに当たって日本と合意した水準に満たないためだとし、「歴史に関して日本側と妥協しない確固たる意志の表現だ」と強調した。

 日韓の歴史認識を巡る問題の根の深さが、改めて浮き彫りになったといえる。

 佐渡金山の世界遺産登録に対し、韓国側は「戦時中に朝鮮半島出身者の強制労働があった」として一時反発していた。

 日本政府は韓国側と交渉を進め、7月の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会で、推薦範囲の江戸時代までに限らない「全体の歴史」の展示や、全ての労働者のための追悼式の開催を表明し、韓国側も登録に合意した。

 時間を要した世界遺産登録までの過程でも、文化的価値と政治のはざまで翻弄(ほんろう)された。地元関係者が「一緒に追悼をささげたかった」と、無念な気持ちを抱くのは、もっともだ。

 一方、韓国社会では、世界遺産登録後も日本が「強制労働を認めていない」との批判は根強い。

 韓国メディアは、佐渡市の相川郷土博物館に設けられた展示物に「強制性の認識が欠落している」と問題視している。

 追悼式の名称を巡っては、日本側が「感謝」の表現を入れたいと主張し、韓国が「強制労働の側面が薄まる」と反発したという。

 元徴用工らを支援する市民団体は「世界遺産登録を祝う場」などと反発しており、韓国政府は批判の拡大を懸念したともみられる。

 追悼式は毎年開催する予定だ。式典のあり方などで溝を埋めるため、両国は丁寧に意思疎通を図り、歩み寄ってもらいたい。

 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領就任で日韓関係は改善した。北東アジアの安定のためにも両国の関係を後戻りさせてはならない。

 韓国側の不参加は当初、政府代表として参列した生稲晃子外務政務官が2022年に靖国神社に参拝したと報じられたことが一因とされたが、参拝した事実はなく、報道は共同通信の誤りだった。

 誤報となったことを、私たち報道機関は真摯(しんし)に反省しなくてはならない。同じ間違いを繰り返さぬよう細心の注意を払いたい。