戦火の拡大に歯止めがかかった格好ではあるが、予断は全く許さない。停戦成立を中東全体の緊張緩和につなげるよう、国際社会はさらに力を尽くす必要がある。

 イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの戦闘を巡り、イスラエルとレバノン両政府が停戦で合意し、発効した。

 仲介した米国のバイデン大統領が発表した。

 停戦期間は60日間で、イスラエル軍はレバノン南部から、ヒズボラはレバノン南部を流れるリタニ川以北へ、それぞれ撤収する。

 レバノン軍と国連レバノン暫定軍(UNIFIL)が監視し、米国とフランスも側面支援する。

 停戦合意が破られることのないよう、イスラエルとヒズボラには確実な履行を求めたい。

 両者の戦闘は、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をきっかけに、昨年10月に始まった。

 ハマスと共闘するヒズボラはイスラエルに向け多数のロケット弾やミサイルを発射した。

 一方のイスラエル軍は今年9月、ヒズボラの戦闘員が保有するポケットベルやトランシーバーを爆発させたほか、指導者のナスララ師を殺害した。同月末にはレバノン南部に地上侵攻していた。

 これまでの戦闘でレバノン側は3800人以上、イスラエル側では百数十人が死亡している。

 ガザとレバノンで二正面作戦を行ってきたイスラエルと、多くの幹部を失ったヒズボラが共に疲弊し、兵たん不足に陥ったことが停戦の背景にあるとされる。

 60日間の停戦を恒久的な停戦につなげるよう、米仏や国際社会は働きかけを続けてもらいたい。

 心配なのは、イスラエルのネタニヤフ首相がガザでの戦闘継続を強調していることだ。

 ネタニヤフ氏には今月、飢餓を用いた戦争犯罪などの疑いで、国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出したが、同氏は「反ユダヤ主義の措置だ」と反発している。

 イスラエル国会は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の国内での活動を禁じる法案を可決した。来年1月末に施行予定で、ガザの人道危機が一層深刻化するのは不可避な情勢だ。

 ガザでは戦闘開始以来、女性や子どもを含む4万4千人以上が亡くなっている。イスラエルは市民への攻撃や人道にもとる行いを即刻、やめなければならない。

 レバノン停戦でイスラエルは、敵対するイランへの対応に集中するとしている。

 イスラエルが後ろ盾とする米国で来年1月に大統領に就任するトランプ氏は「戦争を終わらせる」と明言しているが、どう導くかは不透明だ。

 国際社会はトランプ氏の動きも見据え、中東全体の和平実現を目指さなければならない。