「政治は国民のものとの原点に立ち返り、謙虚に、真摯(しんし)に、誠実に国民に向き合う」と述べた。首相はその言葉通りに政権運営し、失われた政治への信頼を取り戻さねばならない。首相の政治姿勢を注視したい。
石破茂首相が29日、臨時国会で所信表明演説を行った。
演説冒頭の政権運営の基本方針では、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯に政策を協議し、より良い成案を得ることが民主主義のあるべき姿だと訴えた。
他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図るとも述べた。
少数与党の自民、公明両党は「年収の壁」を巡り、国民民主党の主張を取り入れる方向で同党と協議を進めている。単なる数合わせだと言われないためには、他の野党の主張にも、積極的に耳を傾けていくことが求められる。
今国会の最大の焦点である政治改革では、野党第1党の立憲民主党などとの意見の開きは大きい。首相は年内に結論を示すとしている。どう合意形成していくのか、首相の指導力が問われる。
三つの重要政策課題の第一に外交・安全保障政策を挙げた。
中国やロシアの軍用機が相次いで日本領空を侵犯するなど、厳しい情勢の中で、日米同盟に基づく抑止力や対処力を維持、強化し、各国と対話を重ねるとした。
「トランプ次期大統領とも率直に議論し、同盟をさらなる高みに引き上げていきたい」と会談への意欲を見せた。
「さらなる高み」とは、具体的にどのような状態をいうのか曖昧だ。トランプ氏は、防衛費や在日米軍駐留経費などの負担増を求めるとの見方もある。
日本の立場を説明し、理解してもらうためにも、トランプ氏との信頼関係の構築が急がれる。
中国との関係は、先日会談した習近平国家主席と、「かみ合った議論を行うことができた」とし、あらゆるレベルで意思疎通を図ると自信を示した。
日中間にはさまざまな課題がある。良好な関係を築き、解決へ向け前進できるよう期待したい。
日本全体の活力を取り戻すことも重要政策課題とした。
地方の人口減少に対する危機感を示し、地方創生は日本の活力を取り戻す経済政策であり、多様な幸せを実現するための社会政策だと強調した。
深刻な状態にある財政状況の改善を進める考えを表明したものの、具体的な手法を示さなかったことは、懸念が残る。
重要政策課題の第三に位置付けた治安・防災の対応では、避難所環境の改善といった事前防災の推進や「闇バイト」にも言及した。
豊かで、安全・安心に暮らせる社会へ、石破内閣は総力を挙げて取り組まねばならない。