危険運転に対する司法判断は示されたが、法律の適用要件が明確になったわけではない。安定的に法律が運用されるよう、法改正に向けた速やかな議論が必要だ。
2021年に大分市の一般道で時速194キロを出して乗用車を運転し、死亡事故を起こした被告に対する裁判員裁判で、大分地裁は自動車運転処罰法が規定する危険運転致死罪を適用し、懲役8年を言い渡した。
被告は懲役7年が法定刑の上限である過失運転致死罪で在宅起訴されたが、遺族の訴えなどを受けた検察側が、懲役20年が上限でより重い危険運転致死罪に訴因変更した経緯がある。
裁判長は「時速194キロでの交差点進入は進路から車を逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があった」として、危険運転致死罪を適用した。
一般道を時速194キロで走行するのはあまりに常軌を逸している。危険運転だとした判断は一般的な市民感覚に沿うものだろう。危険運転の抑止につなげたい。
危険運転を巡っては、明確な適用要件が定まっておらず、危険運転致死罪と過失運転致死罪のどちらを適用するかで、司法判断が分かれる事態が相次いでいた。
悪質性の高い運転でも危険運転致死罪が適用されないケースがあり、批判が出ていた。不注意を意味する「過失」による事故と判断されることに、強い疑問を抱く被害者遺族もいた。
厳格であるべき法律の適用にゆらぎが生じれば、司法制度への不信につながりかねない。
前橋地裁では10月、飲酒事故について過失運転致死傷罪から危険運転致死傷罪への訴因変更が認められた。宇都宮地裁でも時速160キロ超で運転して起こした事故で同様の変更が認められている。速やかな見直しは喫緊の課題だ。
法務省の有識者検討会は大分地裁の判決に先立ち、法改正に向け高速度と飲酒の数値基準の設定を提言する報告書をまとめた。
現行法における適用要件は、高速度については「進行の制御が困難」、飲酒については「正常な運転が困難」などとする抽象的な表現にとどまっていた。
検討会では具体的な数値基準は示されなかったが、高速度の基準として「最高速度の1・5倍や2倍」とする意見があった。飲酒では血中アルコール濃度を用いることなどが想定される。
危険運転を巡る議論は今後、法制審議会の場に移る。ドリフトなど曲芸的な走行行為も処罰対象への追加が提言されており、議論の深化が期待される。
一律の基準に達しなくとも悪質な運転を、どう判断するかという課題も論点になる。
一般の人にも分かりやすく納得が得られる基準の設定に向け、多角的な検討を望みたい。