増え続けるプラスチックごみへの国際的な対策がまとまらなかったことは、極めて残念だ。各国は、プラごみが環境だけではなく人体にも影響を与える恐れがあることを認識し、ルール作りに向けた機運を高めてほしい。
プラごみによる海などの環境汚染を防ぐための国際条約作りを巡り、韓国・釜山で開かれていた政府間交渉委員会は、条約案への合意を先送りすることを決めた。
最大の焦点だったプラスチックの生産規制で、厳しい規制を求める欧州連合(EU)や島しょ国などと、プラスチック原料となる石油を産出する中東諸国やロシアなどとの溝が埋まらなかった。
産油国側の抵抗が大きいためだ。国際的合意を目指す交渉の難しさが、浮き彫りになった。
安価で軽く、丈夫なプラスチックは幅広い製品に使われる一方、大量に廃棄され、流出している。環境汚染は地球規模の課題だ。
国連環境総会は2022年、汚染を防ぐための条約作りと、そのための政府間交渉委の設置を決めた。24年末までに条約案をまとめるはずだった。
会合は25年に再開されるが難航が予想される。生産から消費、廃棄までのあらゆる段階で、一刻も早い取り組みが必要であることを各国は忘れてはならない。
経済協力開発機構(OECD)によると、19年の世界のプラスチック生産量は4億6千万トン、廃棄された量は3億5300万トンで、いずれも00年の2倍となった。
40年の生産量は7億トン超で20年比1・7倍、環境流出は1・5倍になると推計されるが、厳しい対策を取った場合、環境流出は95%程度削減できるという。
これまでに川に1億900万トン、海に3千万トン蓄積された。50年の海中のプラごみ量は、魚の量を超えるとの予測もある。
さらに問題なのは、川や海を漂ううちに直径5ミリ以下まで小さくなった「マイクロプラスチック(微少プラ)」が、人間の体内で相次いで検出されていることだ。
頸(けい)動脈疾患の患者の血管にできたプラーク(塊)から検出されたとの報告がある。プラスチックに含まれる化学物質がホルモン機能の異常を招く恐れもあるという。
英国の大学の研究では、20年のプラごみ流出量はインドやナイジェリア、インドネシア、中国が多い。アジアの国々からの汚染が深刻だ。日本近海は黒潮にのって運ばれた微少プラの汚染が進み、世界平均の27倍との報告もある。
日本政府は、世界一律ではなく各国の状況に応じた規制にすべきとの立場だった。多くの国が参加できるようにとの狙いからだが、「消極的だ」という批判もある。
こうしている間にも海洋汚染は広がっている。環境悪化を防ぐため、日本は国際社会で主導的役割を果たしていくべきだ。