一文字の深さ ひろさ
佐佐木實(みのる)はこの10年ほどカタカナの「イ」をかきつづけている。
いつしかその制作自体が、つまりかく過程と、結果として生まれる作品が、「イ充(み)つ」と佐佐木自身によって呼ばれるようになった。
かくは書くであり、描くであり、掻くであり、欠くであって、遠いむかしの楔(くさび)形文字や甲骨文字のごとく、掘られ刻されたものへ、あるいはことへ帰ろうとするかのように、最近の「イ」では書き、描かれた紙が折られたり、めくられたり、たたまれたりする。まるでイをこちら側に刻み、鋳(イ)抜こうとするかのように。
カタカナはひらがなと同じく漢字をくずし、一部を抜き、あるいは欠かせ、変形するなどして生まれた字...
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