極めて厳しいウクライナの戦況を踏まえた苦渋の決断だ。現実路線へかじを切り、早期終戦へつなげるために、国際社会は後押ししていかねばならない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は共同通信と単独会見し、2014年にロシアが併合したクリミア半島を含む一部の占領地について、武力による奪還は困難だとし、外交での全領土回復を目指す必要があると述べた。

 22年2月のロシアによる侵攻開始以来、全領土奪還を掲げて徹底抗戦してきたゼレンスキー氏が、最大の方針転換をしたと言える。

 欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナの加盟が確約され、侵略を抑止する環境が整えば、一部領土は戦闘終結後に交渉で取り戻す考えを強調した。

 侵攻から千日以上が過ぎ、核大国のロシアを相手にした消耗戦で、ウクライナがじりじりと追い込まれていることは明らかだ。

 ゼレンスキー氏は会見で、ロシアに併合された東部・南部4州などでは「どれだけのウクライナ人が亡くなったか正確な数字を把握していない」と述べた。

 ロシア軍が軍事拠点化を進めるクリミア半島などの一部領土については「奪い返す力が欠けている」と認めざるを得なかった。

 一方的に占有された領土の武力奪還を断念するというのは、やむにやまれぬ判断に違いない。

 ゼレンスキー氏は「ウクライナの誰もがこの戦争を終わらせたいと考えている」とも語った。

 人命を最優先するという国民の思いを尊重し、国際社会は戦争終結に向けて連携したい。

 紛争は、ウクライナが先月、長射程兵器でロシア領内を攻撃し、新たな局面に入った。供与した米英仏が使用を許可したためだ。

 対抗措置で中距離弾道ミサイルを発射したロシア側も、兵器や兵力の不足を補うため、イランや北朝鮮と軍事的な連携を強化するなど、グローバル化している。

 これ以上、拡大させないための努力も国際社会には求められる。

 ただ今後、ゼレンスキー氏が描く形に導けるかは不透明だ。

 ロシアのプーチン大統領がクリミアを話し合いで手放す可能性は限りなく低く、NATO側もロシアとの戦争に巻き込まれる恐れが高まるとして、ウクライナの加盟には否定的な意見が根強い。

 さらにウクライナ最大の支援国である米国では、トランプ次期大統領の政権移行チームが加盟を棚上げする案を検討している。

 終戦へのハードルはなお高いが、長引けばさらに多くの人命が失われ、国際的な危機が増す。戦闘を引き延ばす余地はない。

 日本は戦争終結後の復興支援で果たすべき役割が大きい。政府は引き続きウクライナと対話し、支援に力を注いでもらいたい。