政権運営が思うようにいかないから戒厳令を発令するとは、民主主義国家の大統領として信じられない暴挙だ。強く非難する。

 国会決議を受け解除したものの、混乱は当面続くだろう。日本を含めた周辺国や国際情勢に影響する可能性があり、注視していかねばならない。

 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、緊急の談話を発表し、「憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣布する」と表明した。国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が、国会を利用して国政や司法をまひさせているためだとした。

 非常戒厳は戒厳令の一つの形態だ。陸軍大将を司令官とする戒厳司令部が稼働し、国会に武装した兵士が入った。

 戒厳司令部は「国会や地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」などの布告令を発表し、言論と出版も統制を受けるとした。

 韓国で戒厳令の宣言は、軍事政権下だった1980年代初頭以来で、87年の民主化後は初めてとなる。多くの国民が国会前に詰めかけ尹氏を非難した。

 強権政治に逆戻りしたような蛮行が、理解を得られなかったのはいたって当然だ。

 与党「国民の力」でさえ、戒厳宣言を批判する談話を発表した。国会は解除要求決議に賛成した。

 尹氏が強硬策に踏み切ったのは、野党の抵抗を受けた厳しい政権運営と、支持率が低迷する事態の打開を狙って、賭けに出たとの見方がある。

 4月の総選挙で与党が大敗し、野党側が通した法案に尹氏が次々と拒否権を発動したり、政府予算案を野党側が減額し単独可決したりしていた。

 妻の不正疑惑が強まっているほか、尹氏自身も政治ブローカーとの不適切な関係が指摘された。11月末の世論調査で、支持率は19%、不支持率は72%だった。

 野党は、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。任期中に罷免される可能性もあり、韓国政治の混迷が続く恐れがある。

 与党も混乱を招いた尹氏の責任を追及しており、尹氏の求心力回復は絶望的になったといえる。

 気になるのは、良好な関係に転換していた日本への影響だ。

 尹氏は、元徴用工問題の解決策を発表し、岸田文雄前首相との間でシャトル外交を復活させるなどして関係正常化に合意した。本県の「佐渡島(さど)の金山」が世界文化遺産登録を果たしたのも、日韓関係改善の影響が大きかった。

 積み上げてきた2カ国の信頼が失われないようにしたい。

 核・ミサイル開発を進める北朝鮮をにらんだ安全保障の観点からも、日米韓の連携は欠かせない。北東アジアの平和と安定を維持していくためにも、韓国は混乱を長引かせてはならない。