住民が安心して水道を使えることが第一だ。行政は調査を続けて実態を把握し、必要な対策を講じていく必要がある。
発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国各地で検出され、住民に不安が広がっている。問題を受け、環境省などが本年度実施した水道水の全国調査で、富山県を除く46都道府県の332水道事業で検出された。
検査した全国1745水道事業の2割に相当する。
PFASはフライパンや食品包装、航空機用の泡消火剤などに使われてきた。一方、人や動物への毒性や蓄積性が確認され、がんや出生時の体重低下との関係が指摘されるが、現状ではデータ不足で健康影響は定まらないという。
調査では、PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)とする国の暫定目標値を超えた事例はなかった。だが複数の水道事業で47~49ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。
本県では、検査を実施した63事業のうち長岡市の川口中央簡易水道で1リットル当たり6ナノグラムが検出された。市は「ごく微量で安全性には問題ない」としている。
定期的に検査し、数値が上昇しないか、確かめてもらいたい。
気がかりなのは、水質検査や暫定目標値を超えた際の水質改善などの対応が、努力義務にとどまっていることだ。測定義務がないことを理由に、一度も検査を実施していない水道事業も一定数ある。
水道法上の「水質基準」の対象に格上げされれば、対応に法的義務が生じる。
開会中の臨時国会で石破茂首相は「水質基準の引き上げを含め、来春をめどに方向性を取りまとめたい」と述べた。安心できる水質確保に向けて取り組んでほしい。
過去に暫定目標値の28倍のPFASを検出した岡山県吉備中央町は、取水源上流に野ざらしで置かれていた使用済み活性炭から流出したと汚染源を特定した。
住民の不安緩和を目的に、全国で初めて公費での住民の血液検査も独自に始めた。
汚染源が特定できれば水源の切り替えなど一定の対策を進められる。だが特定は容易ではない。
国は汚染経緯の調査や対策に消極的だ。環境省は「各自治体が判断しており、要請に応じて技術的助言をしている」とするが、対策に地域差が出ないよう積極的に手を打つべきだ。
暫定目標値を巡って、厳格化を求める声もある。
米国は2物質の飲料水の規制値をそれぞれ1リットル当たり4ナノグラムと設定している。ドイツは2028年に2物質を含む4種類のPFAS合計で20ナノグラムとする方向だ。
2物質で計50ナノグラムの日本との差は大きい。国際的な基準も参考に、検討することが欠かせない。